【実l況l者】好きを更新し続けよう【短編集】 (ページ14)

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毒に見せかけた光 _fj ページ14

「へえー！Aは物知りだね」

そう笑う彼を見て、胸が痛くなる。わたしは彼に毒を盛り続けている。彼が嫌いなわけじゃない、むしろ大好きだ。死んでほしいわけじゃない、わたしを忘れてほしくないだけ。

毒というのも別に青酸カリだとか農薬だとか、そういうのじゃない。好きな人に何か特別な知識を植え付ける、というありがちな毒。好きな花を教えるとか、星を教えるとか。別れた後にじわじわ効くタイプの毒。

「ねえA、これなんていうの？」

そんなわたしの気持ちはつゆ知らず、彼はなんでもわたしに聞いてくる。彼に聞かれたことでわからないことは一緒に調べるし、わからないことがないように雑学はよく仕入れるようにしている。

「高校のときに必死こいて覚えた世界史なんてほとんど覚えてないのに、Aに教えてもらったことは忘れないんだよねえ」
「フジ、褒め上手すぎ」

うまく効いてる。別れることなんて想像したくないけど、わたしの存在は彼に刻まれただろう。

なんて心の中に得意げになってた、アホらしい。実際に毒を盛られていたのはこっちだった。彼と調べたこと、彼に教えるために覚えたこと、彼が物知りだねと褒めてくれたこと、それら全部が毒なってわたしの身体に回っていた。

「フジ、なに考えてるの？」

その毒はわたしを蝕み続けた。世界一幸せだと勘違いしてしまいそうな程にそれに酔っていて、心地よかった。

「…ウェディングドレス、やっぱりそれにして正解だったね、かわいい」

そう笑う彼がこんなにも愛しい。わたしに毒をもった彼、一生添い遂げてくれなきゃ許さない。お互いを忘れる暇なんてないくらい愛し合っていこーね。

『毒に見せかけた光』end