Message in a bottle【叡智】 (ページ24)

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7月12日ページ24

ああ、統合国成立前後の弾劾文か。
そんなことを思いながら、カンジは一度視線を上げた。社会の教員を目指す彼の頭の中には、現代史として大戦争から統合国立国までの流れは一通り入っていた。
教育場からこの手紙が出てきたことには少し驚いたが、内容は今のところ、あまり彼を揺さぶるものではなかった。典型的な弾劾文。研修の時間に似たような内容の文章を見たと思い出す。教育場の教員養成課程では、勉強する意味は教わらないが、文字を普及させないための理屈は嫌というほど教わる。言語の多様性が社会の多様性を担保しているのではないか？ ――いいえ。言語の多様性と言っても、その多様性は私たちの想定可能な範囲に収まる。故に、単一言語においても、想定することさえ怠らなければ多様性は担保される。だからこそとりわけ「残る言語」である文字は想定することに長けた人間、天才のみ使用し確実に蓄積していくべきである。ではないか？いいえ。とも言えるか？いいえ。いいえ。いいえ。いいえ。教育場では、子供たちに「勉強しろ」と叩き込む必要はないが、「文字は凡人には不要」と徹底的に叩き込む必要があるようだった。
　そのような教育場で育ち、今度は教壇に立とうとしているカンジにとって、この手紙の内容は過去であった。敗北した側の論理だった。取るに足らない、たまたま残ってしまった遺物。そう言って捨てることも出来たが、気づけば彼の手は次の便箋を取り出していた。
　が、そこでちょうどチャイムが鳴る。次の時間は授業の準備を手伝わなければならないのだった。カンジは少し迷って――便箋を封筒の中に入れ、コンテナの中の本の間へ戻した。

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