7月13日 ページ25
借りてきたものから読み終えたものへ。
『勉強って何の意味があるんですか？』
先日、学業不振な子供から放り投げられた言葉だった。そのまま先輩に放り投げてみたものの、答えは「自分で考えてみなさい」。自分で考えるべく図書室で幾つか本を借りて読んでいたのだった。どの本に書いてあることも、尤もだと思った。しかし、どの理屈もあの子供を納得させられるとは思えなかった。だって、自分の見込みがあっているとしたら、あの子はそもそも答えを求めていないのだ。答えを求めていない人間に答えを押し付けたとて、受け入れてもらえるとは到底思えない。時計を見る。もう夜はかなり更けていた。今日は諦めよう、とカンジは本をトートバッグに戻した。明日はまた別の本を借りるか、他の先生に相談してみるか。
支度を終えてベッドに入る。そこで、ふ、と思い出した。自分が生徒だった時の、教員の言葉だ。読んだ本が本当に理解できているか確かめてみたければ、その本の作者に質問をしてみなさい。その質問にあなたの中の作者が答えられたら、あなたはきっと善い読者となれている。
ぼんやりと像を思い浮かべる。今日は三冊本を読んだ。ぼんやりと、影が脳裏によぎる。その影を捕まえる。問うてみる。
「……何で勉強しないといけないんですか？」
初めて「自分の言葉」としてそれを意識した。考えるまでもない。勉強することは、いいこと。何か違うのか。
「それ」はゆっくりと振り返って答える。
『そうですね。勉強すべき、と残されている事柄は全て――』
捉えた。一瞬だけ、全ての輪郭がはっきりと見えた気がした。目の前の影も、姿として浮かび上がってくるような気がした。
『残したい、という人々の想いがあって残っているものだからです。あなたたちには、生者としてその責任があります』
そして、かつての私にも。影はそう答えた。
生者には？ その言葉に引っかかってカンジはもう一度問う。
しかしそう問うた瞬間、影は痕も形もなく消え去っていた。
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