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千羽鶴の記憶《弐》 ページ29

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「貴様は何者だ。これを(そそのか)した魍魎(もうりょう)は貴様か」

床にうずくまり、頭を抱えて震える足立を背で庇いながら、芥川は言った。

「それに詭弁(きべん)だ。呪詛も憎悪も、どちらも本質は変わらぬ」

「憎悪と呪詛を同じにしてはなるまい。
憎悪を呪詛とするには、神か悪魔かに変幻するような飛躍が必要じゃ。
 儂はただ、哀れな長虫をサナギに変えてやったまでのこと。これまでの所業(羽化)は紛れもなく彼の意志じゃよ」

老人は、泥の笑みを浮かべた。
毒ガスの瓶を片手に、ゆっくりと、一歩一歩、芥川の目を見ながら近づいていく。


「彼には、その才があった。悪鬼になるにふさわしいほど冷酷で、残酷な、悲しい過去がある。ただ不幸な人の子で終わらせるには惜しい」

「不幸な子だと?他者の人生が、不幸か幸福かを決めるのは貴様ではない。神か悪魔にでもなったつもりか」


最大限の警戒と注視をおこらたず、芥川は老翁から薬瓶を奪う機会を逃さぬようにした。

その内に、マフィア内部で共有されている危険異能者リストにて、常にトップクラスの位置にたたずむ人間と一致する。

この老人はたしか、政府の関係者だったはずだ。

判じものの功名は高く、難事件の解決に少なからず関わってきた、謎多き老人…

確か名は、京極―――。




「うわぁああぁあああああぁああ!!!!!」



真後ろから、悲鳴が上がった。

振り返ったとたん、視界のはしで、『猿』があぐらをかいて座っているのに目がいく。


「あれは、サトリ…?」

妖怪絵巻を愛読書としていた芥川にはわかる。

あらゆる生物の思考を見抜く、古代中国から日本に伝わる妖怪の一種だ。

サトリと目があい、黒い空洞に引き込まれるような錯覚を覚える。

目を合わせてはいけなかったことに気がついた頃には、視界が歪み始めていた。



「はは、開けてしまったなあ。媽々、カカカカカ!!」

「自分が、当事者だとは気づかなんだか」

「介入をした時点で、事態は変容する。
小説のように、読み手が本を開いたからといって内容が変わらぬなど、現実にはあり得んよ。
一之君には、君にはどうしても悟られてはならぬことがあったのじゃ」

「心せよ――お前様が鬼に変えたのだ。芥川龍之介」



老人の声が遠ざかっていく。

足音も、高笑いも、世界から消えていく。



かわりに鮮明になっていくのは、古い武家屋敷が燃え盛る、不可思議な光景だった。




千羽鶴の記憶《参》→←千羽鶴の記憶《壱》



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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時

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