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千羽鶴の記憶《壱》 ページ28




「……尾崎さんを何故(なぜ)殺さなかった」


土壁に叩きつけたまま問う。


「いや。わざわざ生かした。そうだろう、貴様が躊躇(ためら)う理由などどこにもない。
 僕ならば真っ先に尾崎さんの口を封じる。生かしておいたのには理由があるだろう」

「――――!!!!」


微笑みの仮面にヒビが入る。


先ほどとは打って変わって、何かに怯えるような表情に変わったのを芥川は見逃さなかった。


「言え。なぜ尾崎紅葉を生かした。仇を己の力で殺すことさえ出来ぬ腰抜けめ…貴様には最早、復讐者である資格もない!!! 言え!!」

「なぜ……?」


なぜ。その言葉は何度も、足立の頭の中で繰り返された。


なぜ尾崎紅葉を生かしておいたのか。


口封じをせず、生かしておいた理由は?


答えが用意できない。


答えを何度も用意しようとして、自問自答を繰り返せば、頭の中では別の光景が繰り返される。



泣き叫ぶ自分。


刃物を持つ母。


茫然と、離れたところから、自分たちを見つめている尾崎紅葉。



足立は身震いした。


開けてはならない箱が、目の前に転がっている。その蓋をこじ開けるように、芥川は何度も問う。


なぜ殺さない。


生かしておいた理由は――。



「殺す理由が なかったから」

「尾崎さんは、俺の、仇じゃないから(、、、、、、、)…、」







「君は人を呪ったことがあるかね?」


芥川は、足立の言葉を聞き返す時間を与えられなかった。尋ねるために手の力を緩めると、目の前で糸が切れたように崩れ落ちる。


それに反応する余裕もなかった。


室内に、突如現れたアウトサイダーの方に、全神経が向いた。


「憎んだことなら幾らでもあろうよ。だが、怨念に変えて呪いをかけられたことは、ついぞあったか?」


声の主は、老翁だ。


嗄れたような声にしては背丈は高く、泥のように濁った瞳が芥川を見下ろしている。


年齢はわからない。時という概念から逸脱したように、老人は仙人のような和装で全身を包んでいた。


芥川は迷わず排除のために、黒獣を老人の首に突き刺そうとする。


その攻撃に微塵も反応せず、老翁は穏やかな笑みを浮かべたまま、薬瓶を懐から取り出した。


兵器に疎い芥川にもわかる。


――毒ガスだ。マフィアが殲滅(せんめつ)作戦でも使用する、有機リン系の致死毒だった。


なによりも芥川の動きを強く止めたのは、老人の発する濃い死の気配だった。


生き物としての研ぎ澄まされた神経が、蜘蛛の糸に絡められる寸前であることを報せている。

千羽鶴の記憶《弐》→←ターゲット・ロスト《弐》



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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時

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