芥川VS足立《伍》 ページ25
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銀の機体は陽を反射しながら、駆動音とともに遠ざかった。
3、2、1。
狙撃点からは圧倒的に遠い座標に向かって、68名を乗せた飛行機が飛んでゆく。
やがて、通り道には飛行機雲が浮き上がった。
「……残念ながら、俺がお前に勝ち生き残る確率はゼロだ。諦めて降参する」
畳に伏せったまま足立は言った。
白く浮き上がる雲にも、柱に刻まれた惨劇にも目をくれない。
芥川は注意深く足立を観察する。
腕には刀を握る力など入らず、立ち上がる気力もない。生に対して何の希望も見出していない。
しかし芥川には、その姿が「降参」する人間だとは思えなかった。
「降参?降参と言ったか、お前。それが――命を賭けた野望を、唯一見出した人生の目的を、目の前で破壊された人間の顔か?」
その瞬間、芥川は初めて、目の前の友が、【何を考えているのかわからない鬼】に見えた。
笑っている。
足立少年は殊更愉快そうに、遠のいていく飛行機を眺めていた。
「驚いたなぁ…まさかここまで、全部、
仕掛けた勝負に負けた人間の笑顔ではない。
ヤケクソじみた笑いでもない。
純粋に「安心」を表す笑いだ。
「お前、狙撃を――」
「狙撃ぃ?誰がするか。俺はあいつらを殺そうとなんかしちゃいないよ。逆上して、大声出してカッ捌くだけが仇討ちのやり方じゃねぇさ。
どうでも良いんだ、あいつらの生き死になんざ。絶望して欲しいだけだもの」
絶望。生き死に。――この男は何をした。
しかし思考は一瞬で終わる。
芥川は足元に散らばる爆薬の破片と、書き殴った化学式がもつ「真の意味」を、
飛行機に、ここで作られた爆弾が仕掛けられている。
その時にはもう、何もかもが手遅れだった。
見上げた空には飛行機雲しか浮かんでいない。
空中の密室、何人もの仇を乗せた飛行機は、小さくも絶大な火薬庫となって空を飛んでいく。
諜報員と仕掛けられた爆弾を乗せ、ヨコハマにて待つ首領の元へ飛び去っていくのだ。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時