ターゲット・ロスト《一》 ページ26
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芥川の方は成功したらしい。通信機を片手に、中也は上空を飛び回りながら安堵の息をついた。
燃え盛る、最後の「無人航空機」を海に投げ落とし、首領への報告を終える。
「標的、無事に
戦争には終わりが見えている。
首謀者は芥川によって捕らえられ、じきにマフィアの粛清が始まるだろう。
中也は「粛清」の場を明確に想像し、何度も決意を固めた。
そこで見るであろう血の色にも、目を逸らさずにいよう。師の不始末によって道を違えた弟子の最期を、一生忘れないように。
同じ道を辿るものが二度と現れないように。
その時、中也の悲しい決意を破るように、無線が音を立てた。
『この機体を、海に投げ落としてください』
名乗りを挙げるまえに、鋭く突き刺すような声が無線から飛び出した。
声の主は、飛行機に乗り込んでいる諜報員のものだ。
「…ぁあ?忙しすぎて可笑しくなったか。頭冷やせ暗殺屋。投げ落とすったってもう、無人航空機は全部――」
『機体には爆弾が積まれています』
酷く焦燥した会話に混ざった「爆弾」という単語が、中也を一気に冷静な方へ引き戻す。
飛んでいる飛行機は、目の前の一機しかない。
『このまま飛行を続ければ間違いなく、本部のビルに突っ込みます――』
足立だ。
無人航空機を狙撃し、何十機も墜落させたことすら騙しの一手。
飛行機の狙撃と見せかけて、真の王手は『爆弾』だったのか。
少年の爆薬に関する知識と、仕込みの巧みさを知る中也は直感的に叫んでいた。
「解除の手立てはねぇのか!! いや、ある筈だ! ガキは必ず仕込んでる間に誤爆しないように、信管を止めるギミックを用意してる。ギリギリまで足掻け、諦めてんじゃねえ!」
飛び続ける飛行機の翼に着地し、窓を叩いて諜報員と顔を合わせる。
窓の外と、通信機を見合わせて、諜報員の男は苦笑した。
『解除は可能です。工作と陰謀を生業とする人間が68も揃っているんですから。馬鹿らしいほど簡単ですとも。それでも…』
爆弾の解除をするわけにはいかなかった。
男の手元にある爆破装置には、嫌味に整った字でこうあった。
《名誉アル死ヲ以ッテ》
《組織ニ殉セヨ》
緒方家の虐殺を、軍警はこの一言で片付けた。
新聞の小見出しに、時計屋の広告よりも小さく載っていた文章がここにある意味を察して、少年の親仇となった青年は諦めの笑みを浮かべた。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時