時計仕掛けのオレンジ《参》 ページ10
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「それから記入されている住所をいくつか調べた結果、襲撃に関わった傭兵集団・ミミックのアジト。それに、同じく今回の抗争で命を落とした構成員と、扶養家族の家であるとわかりました。
足立は、敢えて梶井の目がある瞬間、つまりアリバイがある時を狙い、勉学に勤しむフリをして 今回の抗争についての情報を密かに探っていた訳です。教師の男も一切気がついていなかったようですが」
「ほう。それは大掛かりな内職だ。それは何のために?彼は基本的に品行方正な優等生のはずだがね。一之君らしくもない」
鴎外の芝居ぶった喋りにも答えず、資料を広げていく。そして一枚の写真を鴎外に指し示した。そこに写っている『男』もまた、鴎外にとっては見慣れた者であった。
「…これは、本当に一之君が?」
写真に写っている男は、坂口安吾だった。傘を差し、雨の中に立っている。
枯葉色の背広と灰色の雨傘、それから黒い大きめの丸メガネが特徴だった。
それ以外には何の変哲も無い、どこかの大学で教鞭をとる人間か、はたまた大真面目な勤め人にも見える。
その手に、『灰色の拳銃』を持ってさえいなければ。
「足立は坂口安吾が異能特務課の人間だと早い段階で気がついていたんです」
―――これが安吾に懐いていた理由だ。
組織に出入りする人間のなかで、唯一の光が当たる世界に生きる人物だから。たった一人だけ信用できる人だと信じていた。
それ故に中也は、坂口安吾という男の仕打ちが許せなかった。
「まず足立はなぜ髪を切られる必要があったのか、俺なりに考えました。普通に考えれば戦闘の合間に、刃物で斬り付けられることもあるでしょう。
ですが、腹の三発以外にどこも怪我を負っていません。そもそも、この腹の怪我もおかしいんですよ。戦闘態勢に入ってる状態で、足立が腹にまっすぐ銃弾を受けるはずがないんですから。
つまり、足立が無傷でミミックを倒した後に、第三者が腹に穴を開けたと考えるべきです」
鴎外は表情を変えず、無言で聞いている。
「 髪をちぎったのは、足立を撃った人間ってことになります。そいつはあたかもミミックによって足立が撃たれたのだと見せかけるように、引きちぎった髪を傭兵に持たせた。
それができる人間は、足立の腹に無抵抗で銃弾を三発食らわすことができる者。『足立が戦場において正面に向き合っていても、警戒心を抱かない者』だけだ」
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時