寄る辺なきもの 3 ページ3
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中也は、シャンデリアに照らされた死体を見渡す。いずれも、その切り口には何のためらいも感じられない。
「俺は……、ここまでやれなんざ一言も、」
中也の声は、大きく掠れていた。死体に顔色を失くすほど、まともな人生を歩いて来てはいないが。
『まとも』な人間だと思っていた子供が、倫理観のない生物だとは信じたくなかった。
これが、自分が尊敬していた足立一之の一面だとは思いたくなかった。
「今更何を仰るのです。……中也さん? どうなさったんですか、貴方、顔色が」
「足立、お前」
「私はただ任務通りに、」
「来るな!!」
中也は、気がつけば鋭い制止の声を挙げていた。
濃厚な死の気配を纏わりつかせてなお、周囲から浮きだったように無感動な態度をとる少年が、自分と同じ倫理を持つ人間であると思えなかった。
人間として成り立たせる重大な理性。倫理。道徳。
それらがどこか、大切な部分だけを置いてきてしまったような 目の前のバケモノが、不気味で仕方なかった。
「……俺が言ったのは、この新郎の殺害だけだ。ここにいる人間全員を殺せなんざ一言も言ってねぇ」
自分ですら、初めて人を殺した時には怯えが心を支配していた。
「なのにどうして……ここに一般人がどれだけいると思ってんだ、こいつらは何も関係ない」
「無関係? 一般人? 貴方は本気でそう思っていらっしゃるのですか」
足立少年は、呆れた表情すら滲ませてこのように言ってのけた。
「標的が群衆に紛れるなら、群衆ごと消すのが定石です。そのようにどこでも習うでしょう。専守防衛だなんてあきれたことをのたまう組織から、バラバラになっていくのをご存知でないと?」
思考と、実行の狭間には、倫理的な壁が存在しない。
合理的を煮詰めたようなその言葉に温度はなく、中也は、言うべき言葉さえ失った。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時