揺れる波間に【AS】by.A ページ11
side a
部屋の壁にかかった時計を見ると
両方の針がぴったり12を指していた
翔ちゃんはまだ、静かな寝息を立てている
そのことを確認してから
俺は小さく息を吐いた
翔ちゃんと俺は、トモダチ
向こうは本気で、そうとしか思っていない
だから俺は、何とかこの気持ちを
抑えることが出来ている
「なあ雅紀、今度うち来いよ。
母さんが色々食べ物送ってきたんだけど
どうやって調理したらいいのか
全く分かんねーからさ」
そう誘われたのは、つい一週間前
翔ちゃんと初めて会った高校一年の時から
一人暮らしなのに料理が出来ない彼に代わって
俺が作ることはときどきあった
「うん、いいよ」
翔ちゃんは俺を警戒していないから
普通に誘えるんだ
そうじゃなきゃ……
トモダチでさえいられなくなる
「雅紀、料理うまいよなー！ホントすげー」
栗鼠みたいに頬張る翔ちゃんを見ていることが
出来なくなるのは嫌だ
俺が料理を頑張ったのだって
翔ちゃんのためなのに
伝えることが出来ないまま
俺たちはオトナになっちゃったね
翔ちゃんに惚れたのはいつだっけ
もう思い出せない
嘘……
思い出さないようにしてる
「ん……雅紀、起きてた？」
「うん、ついさっき」
「……今日休みだよな」
「どっか行く？」
……なんて、聞いてみる
寝ぼけ眼の翔ちゃんは
ちょっと考えてから頷いた
「珍しく予定ないし、それもいいな。
どっか連れてってくれよ」
「今から？」
「うん」
嫌だよなんて、言えるわけないじゃん
だって俺は、翔ちゃんと一緒にいられるなら
何だっていいんだから
「どこ行きたい？」
「雅紀の好きなとこでいい」
そんなこと言われると
つい期待しそうになるからやめて
やっぱりいい、やめないで
これ以上を求めたりしないから
俺はこのままずっと
トモダチのままでいいから、さ
翔ちゃんが結婚するときは
泣きながらスピーチして
高校の時からずっとイイヤツでした、
イイトモダチでしたって言ってやる
ほんとはそんなの嫌だけど
もう、泣いてばかりじゃいられない
「じゃ、千葉行こう」
「また？好きだよなー」
「いいじゃん、
俺の好きなとこって言ったの翔ちゃんだよ」
「まーな」
ふは、と笑う翔ちゃんに、今すぐキスしたい
つい浮かんでくるヨコシマな考えを
慌てて消して
「ほら早く、乗って乗って！」
海を目指して、思い切りアクセルを踏んだ
.
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作者名：storm quintet x他4人 | 作者ホームページ：.
作成日時：2014年10月29日 23時
