【完】勝手に財布にお金入れないでください【九井一】

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　九井さんはたまに話し掛けずらい寂しいような取り敢えず私の言葉では表せない雰囲気を醸し出す時がある。


「九井さんてなんで結婚出来ないんですか？お金沢山あったらモテモテじゃないですか」
「出来ないんじゃなくてする気ないだけだ」


　なるほど。その雰囲気のわけはもしかしたら、実は好きな人がいるけどどうにもその人とは結婚出来ないとかそういうことなのか、と解釈して私はまた質問を重ねる。


「好きな人と九井さんに何か障壁でもあるんですか？」
「お前なんなんださっきから」


　ジロッ、とパソコンから私に視線を向けた九井さんの目はしつこい、と言ってる気がする。でも私は暇だから九井さんに話し掛けるしかない。明司さんとか竜胆さんとか他の安全そうな人の部屋にお邪魔しに行こうと思ったら、GPSと盗聴器付きの時計を持たせてきたから行くのをやめたのが数分前の話。


「私高校でも何時でも友達がいなかったので、来いバナナとかいうものをしたかったんです」
「来いバナナじゃなくて恋バナな」
「ほとんど同じですよ」
「いや全然違うだろ」
「いいから何か話してくださいよ」


　はぁ、と溜め息をつかれた。なんだか、私はよく九井さんに溜め息をつかせている気がする。遠回しに私を部屋に留めた九井さんが悪い。


「そもそもオレと関わることなく、普通の生活でオレより真っ当な人間といるべきだから」
「へー」
「お前聞いといてその態度」
「恋バナってこんな重いんだなって思って」
「悪かったな重くて」


　でも、きっとその人のこと大切に思ってるんだろうな、て思った。いや分からないけど。私は母親の男に対する愛というか激しい執着心しか見たことがないから。九井さんはなんだかんだ優しいから、きっといつかいい人と一緒になれるんだろうな、て思った。そしたら私、親離れならぬ九井さん離れできるかな。


「でも叶うといいですね九井さん」



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