【完】勝手に財布にお金入れないでください【九井一】

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　“手術”は成功した。けど、脳への損傷酷くていつ目を覚ますかは分からない、もし目が覚めても記憶を失ってる可能性まであると言われた。

　なんだこのありきたりなドラマみてぇな状況。いや、どっちかと言うより実際に見覚えがある状況。二度目だ。一度目は赤音さん、一命は取り留めたけど、オレが金を集められなかったから、ガキだったから、何も出来ないまま赤音さんは亡くなった。
　二度目は葛原だ。お前もオレを置いていくのか。もうオレのことを忘れてしまっていてもいい、だから今すぐにとは言わないからいつか絶対目を覚ましてくれ。


「A…ッ」


　細くて、握れば簡単に折れてしまいそうな手を力強く握って目が覚めることを恋い願った。


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　幾ら金を積むと言っても、目が覚めるか覚めないかは葛原自身だと何度も言われて、掃いて捨てるほど持っていた金は今はただの紙屑になった。

　年も開けたというのに毎日仕事を終えてから葛原の所へ行っても少しも動かずに静かな呼吸だけを繰り返しているだけのA。


「お前みたいにオレも嫌になるほど眠っていてーわ」


　返事はなくとも、毎日何か一言は声を掛けていた、たまに疲れでそのまま葛原の眠るベッドに突っ伏して寝ることもあった。オレはこんなにも葛原が好きで仕方なかったんだな、と自分でも可笑しくて笑いそうだった。自分のそばに居た奴の大切さを分かっていたはずなのに、こうして失いかけて初めて痛いほど身に染みて分かる。


「オレは馬鹿だな。二度目なのにな」

「オレにはAが必要なんだ。もう嘘はつかねぇ」




「だから早く起きろ。オレにもう一度だけチャンスをくれ」



　握った手はなんの反応も示さず、何ら変わらず葛原は呼吸だけをしていた。



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