PARACAGE 9th【ars】 (ページ26)

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306.エンドロール。ページ26

「それは...もう、モデル業はしない...って事...？」

例えば俳優に転向だとか、最近のモデルさんにはよくある事。

「映像のお仕事を引き受ける...とか」

私が訊くと、彼は小さく首を振った。

「事務所からも、ドラマや映画の話もあるって言われたの。でもどう考えても俺、自分がお芝居出来ると思わないし。申し訳ないけど、全部断った」
「......」
「...約束も、果たせたし」
「約束...」
「初めてテレビ出る時には、あの人の服を着て出る」
「あ...」

雅紀くんが話してくれた事。
どうして映像作品に出ないのか。
それは、その約束があったから。

そして雅紀くんはアキラさんが作った服を着て、ショーに出て、それがテレビで放送された。

「一番良い形で、約束果たせた気がするし」
「......」
「だからもう、咲で居る必要が無くなった」
「......」
「...呼ばれる度に呪われてるみたいだって思ってた名前...」

ちょっとだけ苦しそうに眉を顰める。

「だけど、その名前もAちゃんのお陰で好きになれたからこそ、ちゃんと手離せる」
「...雅紀くん...」
「モデルになってからは『咲』の人生しか生きてなかった気がすんの、俺」
「......」
「そろそろ『雅紀』に戻りたいって、そう思った」

苦しそうだった彼の表情は、また穏やかになってた。

「完結したんだと思う。俺の中で」
「完結...」
「うん。咲の人生は、もうエンドロールまで来てるかな！」
「そう...なんだ...」

俯くと雅紀くんの手が伸びて来て、私の頬に触れる。
目をあげると、彼は「そんな顔させちゃって、ごめんね」とまた謝った。
雅紀くんが謝る事なんて、何一つ無いのに。

「実はね、ちょっと躊躇ったの。本当にモデル辞めて良いのかな...って」
「え...？」
「だってAちゃんは、咲が好きだし…。普通の男になった俺になんて興味無くな...」
「そんなワケ無い！何言ってんの！？」

食い気味に、しかも怒鳴り気味で否定した私に雅紀くんは目を真ん丸にして「...ごめん...」と呟くと、プハッて吹き出し笑った。

「あ...私こそ大きな声出してごめん...！」
「ううん、嬉しかった。安心した、ありがと」

今度は頭をポンポンと撫でられる。

「俺、引退の時は百恵ちゃんみたいにマイク置きたい」
「フフッ、歌手じゃないのに？」
「そっか」

笑いながら立ち上がった雅紀くんが私の方へ来て、立ったまま座ってる私を抱き締めた。
雅紀くんのペッタンコなお腹に頬を寄せて、その腰に手を回す。