PARACAGE 8th【ars】 (ページ11)

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256.映画鑑賞会。ページ11

その夜、まだ雅紀くんからのLINEは無かったけどきっと今日も『先に寝てて』って連絡が来るだろうと私は自分の部屋に居た。

廊下からは、住人がそれぞれの部屋に入って行く音が聴こえて来る。
ニノくんと智くんが大声で喋っていて、翔さんが「うるさい！」って怒鳴ってる声も聴こえた。

コンコン

ドアがノックされる。
誰だろう。
「はーい」と返事だけしてドアを開けると、そこに立ってたのは潤くん。
お風呂上りのお家仕様だから、眼鏡。

「潤くん、どうしたの？」
「これ」

差し出されるブルーレイ。

「観れなかったって言ってなかった？」
「あ！うん！観たかったのに映画館行けなかったの！」

それは、ディズニーのアニメを実写化したミュージカル映画。
絶対に映画館行こうと思ってたのに行けなかったやつだ。

「観る？」
「観たい！」
「じゃ、今から下で観る？」
「今から？」
「俺が今から観る気だったから」
「潤くん、明日休みなの？」
「まさか。平日なのに」

私の返事を待たずに廊下を歩いて行く潤くんを追い掛ける。
一階の電気は消えてたけど、せっかく映画観るんだしって暗いままでソファに並んで座った。

「A」
「ん？」

潤くんが画面を観たまま、話しかけて来る。

「結局雅紀からは、何も聞いてないの？」
「んー...まぁ...」
「それで良いの？」
「......」
「本当に、それで良いわけ？」

画面の中では主人公が清らかに歌う。

「なぁ、Aは楽しい？」
「......」
「俺は、お前が辛そうにしてる顔ばっか見てる気がするんだけど。気のせい？」
「...潤くん、映画観よ」

潤くんはもう何も言わなかった。

私達が同じタイミングで振り返ったのは、ダイニングの電気が点いたからだった。
映画を観始めてから30分程、過ぎてたと思う。

「...何してんの？」

そこに居たのは雅紀くんで、彼は私と潤くんを交互に見た。
少しも、笑顔を見せずに。

「映画観てただけ」

潤くんが答えると、雅紀くんは「あ、それ俺も観たかった」と笑った。

「じゃあ、二人で観たら？明日から暫く会えないんだろ？」
「良いの？ありがと、潤ちゃん！」

ソファを立ち上がった潤くんが、雅紀くんの方に歩いて行く。

そして、すれ違う時

「雅紀、お前ズルいな」

潤くんの低い声。

「お前のやり方は、ズルいよ」

そのまま私に背中を向けて部屋を出て行った潤くんの表情は、見えなかった。