PARACAGE 7th【ars】 (ページ33)

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243.想い出だけで。ページ33

家に帰ると、みんな部屋に戻ってるらしく一階は暗くて静か。
上からは微かに足音なんかが聴こえる。
自分以外の生活音が聴こえる事にも、もうとっくに慣れた。

雅紀くんと一緒に2階に上がり、さくら色のドアへ行こうとした時。
後ろから手首を掴まれた。

振り向くとその手首をグイッと引っ張られ、雅紀くんは私の耳元に顔を寄せる。

「お風呂、上がったら俺の部屋来て」

ヒソヒソと、囁く声。

「えっ.....」
「一緒に寝よ？」
「.....」
「ホントに、一緒に寝るだけ。俺、前も嘘つかなかったでしょ？」
「...うん、分かった」

私が応えると、彼は手を離し「またあとで」と微笑み鶯色のドアの中へ入った。

お風呂の中の私はと言うと、もう人様に見せられる物では無かった。
海での一連を思い出しては悶えて、唸って。
この後の事を考えては、必死で身体を洗った。
それはそれは念入りに。

「...寝るだけだってば！雅紀くんも言ってたでしょ...」

自分に言い聞かせても、やっぱりそこは、もしかすると...なんて思っちゃって。
お風呂上がりのボディクリームも、いつもより贅沢に使った。
一応、勝負下着と言っても良いタイプの下着を部屋着の下に仕込んだ。

もう爆発しそうな心臓を抱えて鶯色のドアの前に立って、息を整えノック。
ドアはすぐに開かれ「どうぞ」と部屋の中に招かれる。

「いい匂い」

雅紀くんにフッと笑われて、何だか自分の気合がバレてしまったようで恥ずかしくなる。

言い訳したい！
別に何かを期待してる訳じゃないんです！
万が一に備えてるだけなんです！備えあれば憂いなしじゃないっすか！

でも、こんな言い訳する方が恥ずかしいって事は分かってる。
何も言わないのが一番だ。

「俺もお風呂行って来て良い？」
「あ...うん、行ってらっしゃい」
「良い子で待っててね」

ひぃっ！って声は、どうにか喉の奥で押し殺した。

雅紀くんはそのまま、部屋を出ていく。
残された私はベッドに腰掛けて、部屋をグルーっと見回す。

こないだ入った時とほとんど何も変わってない。
さっきまで彼が掛けてたサングラスがローテーブルに置いてあるのを見て、そう言えば私プレゼントして貰ったんだって思い出して胸がキュウッとなった。

ってゆーか、それだけじゃないって！
チューした！チューされたって！
また思い出して悶える。
私、この想い出だけで生きて行ける気がする...。

「いやでも待てよ...」

この後、私はどうなる？
もう、死んじゃいそうだ。