PARACAGE 6th【ars】 (ページ31)

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206.濃密に。←10.15 ページ31

玄関の扉が開いた音がしてすぐ、ダイニングの方から翔さんが入って来た。

「あー、眠たい。ただいま」

私達の「おかえりなさい」に「ただいまー」ってまた応えながら、彼はキッチンに入って行く。
なかなか出て来ないから、そこで何か飲んでるんだろう。

私が妙に緊張してるのは、さっきまで話題に出てた人が帰って来た事もあるけど私の気持ちが翔さんにバレてたって事を知ってしまったから。
そんな翔さんがこの状況を見たら、どう思うんだろう...だってまだ、何も知らないんだし...。

「さーてとー、お風呂頂こうかなー」

でもキッチンから出て来た翔さんは、別にこっちを気にする訳でも無く伸びをしながら廊下の方へ向かって歩く。

「あ、翔ちゃん」

そんな彼を雅紀くんが呼び止めた。

「ん？」
「今、お風呂おーちゃんが入ってる」
「あー、マジか」

そっかー、って翔さんの口がちょっと尖る。
目がクルンと大きくなって、少し幼くなる。翔さんがよく見せる表情。

雅紀くんが私の肩にポンっと手を置いた。
彼を見ると口角をキュっと上げて立ち上がり、翔さんに近付いて行く。

「ねぇ翔ちゃん。おーちゃんがお風呂から出て来るまで、俺とお喋りしない？」
「雅紀と？」

「たまには良いじゃん」って、雅紀くんは翔さんの背中に手を添えた。

「まぁ、良いけど」
「じゃ、俺の部屋行こ！」
「え？ここでAさんも一緒に喋るんじゃないの？」
「男同士で濃密に話したい時もあるでしょ？」
「えー？気持ち悪いぃ」

雅紀くんに顔を覗き込まれた翔さんは、眉毛を八の字にして顔を顰めた。

「ささ、翔ちゃん。緑の館へいらっしゃい」
「ヤバイヤバイ！何かやだ！Aさん、助けて！」

肩を抱かれて連れ出されてる翔さんが振り返って助けを乞うてきたけど、苦笑いするしか出来ない。
アハハー、なんて嘘くさく笑いながら手を振ると翔さんは残念そうに前を向き直した。
次の瞬間、今度は雅紀くんが振り返る。

その顔がさっきまでフザけてたとは思えない位に真顔だったから、振ってた手が止まった。

緩く開いた唇が、何か言葉を発するのかと思ったのに

彼はそのまま口を閉じ、「翔ちゃん、優しくするからね？」なんてまたフザけながら翔さんと部屋を出て行った。

ドタドタと階段を昇る二人分の足音。
ヤイヤイと言い合ってる二人分の声。

それとは対照的に、リビングはシン...と静まり返る。

静けさが、耳に痛い。