PARACAGE 5th【ars】 (ページ9)

今日:3 hit、昨日:8 hit、合計:1,708,816 hit

149.紳士なあの人。ページ9

桜香寺の裏に停めてた車を、私服に着替えた翔さんが運転する。
私は助手席。

「翔さん、車乗ってたんですね」
「普段の移動は小回り効くからバイクばっかりなんですけどね」

運転する翔さんの横顔は、文句無しに格好良い。
美坊主って話題になってたよね。取材されたりしなかったのかな。

なんて考えてたら、急ブレーキ。
その瞬間、横から翔さんの腕が伸びて来て、つんのめりそうになった私の身体を守ってくれた。

「ごめんなさい！大丈夫ですか？」
「あ...大丈夫です！」

紳士...！お父さんだってお兄ちゃんだって、こんなコトしてくんないよ！

無理な割り込みがあったみたいなのに、その車に向かって翔さんは穏やかに「そんなに急いでどこ行くのー？」なんて笑ってる。
私だったら相手に聞こえないのを良い事に「あっぶねぇぞー！」とか言っちゃう案件。

この席に何度も乗ると本当に屍になるかもしれない。危険。

車で20分くらい走った所にその焼肉屋さんはあった。

「いつもバーベキューの時はここにお肉を頼んでるんですよ」
「そんなに美味しいんですか？」

私にちょっと顔を近付けて「ほっぺたが落ちちゃいますよー？」って得意気に言う。
若干古い言い回しも、翔さんが言うとやたらと魅力的な言葉に聴こえるから不思議。

調度、お昼休憩の時間らしくお店のドアには『準備中』の札が掛けてあったけど、翔さんは「ごめんくださーい」と言いながら入って行く。
私もその後ろをついて行く。

店の奥から白いシャツのお兄さんが走って出て来た。
口をモグモグさせてる。

「いらっしゃいませ！」
「ごめんなさい、お食事中でしたよね」
「いえいえ！松本様でご注文頂いてるお肉ですよね？」
「はい」

少々お待ちをー！って、お兄さんは厨房の方へ入って行った。
爽やかで可愛い感じのお兄さん。

「ねぇAさん。あの店員さん、どう思います？」

翔さんがニコニコしてる。

「え？そうですねぇ、可愛いなーって思いました」
「フフッ、ちょっと雅紀に似てるんですよね」
「...えっ！？」
「似てないですか？」

不意打ちで出て来た名前に動揺して、でも動揺したらバレる！って慌てて「えー？似てたかなー？」なんて興味津々な顔でお兄さんが戻って来るのを待ってみる。
...誤魔化せてるよね...？

「お待たせしましたー！」

両手に袋を持って戻って来たお兄さんは確かにちょっと雅紀くんにどこか似てて、思わず翔さんと顔を見合わせて笑った。