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28_さよならオーシャンビュー ページ19

目を覚ましたのは結局一時間後だった。


こんな何処に敵が潜んでいるか分からない場所じゃまともに眠れもしないのかと自らの職業病が戻ってきたことに何となく安堵する。


正気に戻ったのだろう、精神面で少し余裕が出来たのか、一人テラスで首を回す、まあそれはいい。


きっともう沖縄に居る必要はないのでそろそろ本州の方へと戻っていく筈だ、きっと今日か明日にでも出発するのだろう。


現在早朝五時、ぐうっと背伸びをすると何となく潮の匂いが漂ってくる、この場所とももうお別れだ。


意外と長かった、滞在期間としては随分と長期に及んだのではないか、と思案していると、足音が聞こえる。


聞きなれた足音だった、視線を方向に移すと、そこには春奈がふわふわと夢現のまま向かってきた。


「……春奈?」


「ぁ、……翠さん、」


「眠たいのか、まだ寝ればいいのに、」


「ぃ、いやです、私クジラさん見れてない……」


「鯨?」


よく見ると彼女、水着を着ていて、その様子じゃあ先日のことが心残りだったみたいだ。


それに近海で鯨だなんて見れるわけが無いのだ、季節だって若干違うのだし。


「だがなぁ、」


君、そのままじゃあ溺れてしまうよ、と呆れ半分言おうとした。


『沈んじまうぞ』


「…………」


耳元で言われたそれがささやかな熱を持つ、何となく、何となく数時間前のその言葉の言語化できない意味が見い出せた気がした。


「……翠さん?」


「ぇ、……あ、嗚呼、いや」


『条介、』


「なんでもない、」


「?」


「何でもない」


大丈夫、そう言うと彼女は柔らかく笑った。


夜明けだった、暁よりもずっと少し明るくなった、グラデーションが幻想的で夢現の彼女はそれをぼうっと見つめている。


「なあ、なあ春奈、」


んー、と眠たげに声を出す、とっくに正気に戻っていた私は彼女に向き直って、


「クジラを、見に行こうか」

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久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - あかいりんごさん» あかいりんご様、閲覧及びコメントありがとうございます!とっても嬉しいです!!更新は停滞気味ですが気長に待って頂けるとありがたいです!! (2021年3月31日 22時) (レス) id: 6e12f91009 (このIDを非表示/違反報告)
あかいりんご(プロフ) - コメント失礼します。昔から見ててずっと探してました!言葉選びが凄く好きです!応援しています! (2021年3月30日 20時) (レス) id: 089acdd5f5 (このIDを非表示/違反報告)
久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - 星猫さん» 申し訳ございません、こちらは存じてないです。完全なる自己満足の駄作なので合作する予定も今後もないのです……。ご不快にさせて大変申し訳ございません……! (2021年3月17日 0時) (レス) id: 6e12f91009 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 後、トラスフォーマープライムは知ってます? (2021年3月16日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 一緒に合作しませんか? (2021年3月16日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:久坂朧@三色団子と朧は神 | 作成日時:2021年1月26日 21時

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