検索窓
今日:4 hit、昨日:5 hit、合計:268,726 hit

90話 ページ19

着替え終わり、余った袖を捲りながら脱衣場から出ると治が酒瓶とお猪口を手に私を出迎えた。

太「少しだけどね。」

「良いの?その日本酒、高いやつでしょう?」

私は卓袱台に向かって座り銘柄の日本酒を見てぎょっとする。
そんな私をさておき、今日飲まずしていつ飲むんだいと笑いながら治が私にお酌をしてくれる。
これ以上は無粋なのでお言葉に甘えてありがたくいただく。
会えなかったときの話を肴に互いの話で盛り上がる。

姉弟水入らずの時間はあっという間に過ぎていく。
夜も更けて大きな月が静かに横浜の街を照らす。
酒も尽き、お開きにしようかという雰囲気が自然と流れ出す。
私がお猪口を片付けていると治が押し入れから布団を取り出し敷き始めた。

太「そろそろ休もう?」

「そうだね。手伝うよ。」

布団を並べて敷いて電気を消す。
二人でとりとめもない話をしながら睡魔が来るのを待つ。
会話が途切れてから暫くすると隣に居る治の寝息が聞こえてくる。
私が死んだことになってから今まで気苦労をかけてしまったのだろう。
お酒の力もあったのだろうが重荷の1つから解放された治は気持ち良さそうに眠っている。

大人になったといえども寝顔は相変わらずあどけない。
昔よく眠れない治の頭を撫でて寝かしつけたっけ…よく眠れるようにと治の頭を撫でながら起こさないように小さな声で囁く。

「治は治らしく思い切り自分の人生を生きてほしい。治の笑顔が……存在が私の何よりの生きる希望だからね。ふふ、駄目だね。なんだか今になって照れてきちゃったよ。」

すやすやと寝息をたてる治を愛しく眺めてから改めて布団の中に潜り込む。

うつらうつらしていると左半身に寄り掛かられたような重さを感じた。
治が寝返りをうった拍子に此方に来たのだ。

寝ぼけた眼でそちらを見ると治の掛け布団は落ちてしまっていた。
元の場所に戻して布団をかけ直してあげようと思ったが気持ち良さそうに眠っている治を起こしてしまうのは忍びない。

私は左側に少しずれて、自分の使っている掛け布団を治にもかけて二人で寝ることにした。
一緒の布団に入ると治は寝ぼけているのか私に抱きついてきた。
幸せそうに眠っている。

私は治を抱き締め返して今度こそ深い眠りの底へ沈んでいった。

91話→←89話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (235 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
467人がお気に入り
設定タグ:文スト , 太宰治 , 中原中也
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

甘栗(プロフ) - ウナさん» どんどん中也さんの活躍増やしていこうと思ってます!ドキドキしてもらえるように頑張ります! (2019年4月4日 19時) (レス) id: 8ba49da6fd (このIDを非表示/違反報告)
ウナ - うわあ、もうかっこよすぎです、中也!!やばいですよもう!凄いです! (2019年4月4日 18時) (レス) id: 0bc8f10023 (このIDを非表示/違反報告)
甘栗(プロフ) - チョコ味の白兎さん» 確かに口調が敦君みたいですね(笑)色々な関係が動く予定なので楽しみしててください! (2019年3月30日 20時) (レス) id: 8ba49da6fd (このIDを非表示/違反報告)
甘栗(プロフ) - 雪宮暦さん» カッコいい中也を目指してるのでそう言って貰えて嬉しいです! (2019年3月30日 20時) (レス) id: 8ba49da6fd (このIDを非表示/違反報告)
チョコ味の白兎 - 最後のセリフが敦くんっぽい!ここからの展開が楽しみ! (2019年3月30日 17時) (レス) id: 8cc010c4ca (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:甘栗 | 作成日時:2019年2月28日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。