【追いかけてホールから出る ５】 ページ26
「俺は君に……、Aにここにいて欲しいと思うよ」
『で、でも……身元も不明な怪しい人間ですし…』
「そう」
『常識知らずなので役に立ちませんし……？』
「うん」
『お金も家も何も持ってませんよ……？』
「だろうね」
はあ、と小さく息を吐いて呼吸を整えた春草さんは私の両手に左手を重ねた。
「俺にとって大切なのは君が役に立つか、立たないかじゃなくて……君と過ごす時間が楽しいかどうかだから」
『楽しい……』
「そう。俺は君の近くにいて、楽しいことも面白いことも共有したいと思ってる。君のことを離したくない。何も持ってなくても、“ 役に立たない” なんてことはないから。それに不安なら、ずっと俺の近くにいればいいだろ」
『ずっと……？』
「そう。つまり……その……俺はAが好きってこと」
『！』
春草さんの言葉を聞いて胸が高鳴る。目に見えない何かで、心臓がきゅっと締め付けられている感覚なのに苦しくない。それが私の答えだと、すぐに気がついた。
『……嬉しい、です』
顔がだんだん火照ってくる。けれど、自分の中で気持ちがはっきりした以上、“答えない” と言う選択肢はない。
『その、私も……』
精一杯応えたつもりの『好きです』という言葉は、可愛らしさのかけらもない掠れた声だった。自分でも言えていたのかわからないくらい小さな声だったにもかかわらず、私の言葉は春草さんの耳にしっかりと届いていて。嬉しそうに口角を上げる春草さんに、胸を撫で下ろす。
「……良かった」
重ねられていた手はいつの間にか握り合っていた。ただの廊下の椅子で体重を預け合いながら過ごすだけでも、心が楽になる。肩と肩が寄り合うと、春草さんの髪が私の頬に触れて、何だかくすぐったかった。
何を話すわけでもない。ただ寄り添っているだけ。
そこにあるのは互いの温もりだけだったけれど、私にとってはそれが何よりも心地良くて。
もちろん元の世界に戻ることができないという事実は辛い。でもそれと同時に、この時代にいる私にしかできないことがあるわけで。
そんな私を春草さんは必要としてくれているという話を聞いた今、
“これから先の人生を春草さんと支え合いながら、ずっとずっと歩んで行けたら ”
そう思った。
【菱田春草ルート・終】
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小崎相良(プロフ) - Koma?さん» お返事遅くなりすみません！ありがとうございます！ (2022年1月22日 18時) (
レス) id: 6783c5a7bd (このIDを非表示/違反報告)
Koma?(プロフ) - ちょーぜつ面白いですね！最近めいこい見始めて最初に出会った作品がこれで良かったです！ (2022年1月16日 11時) (レス) id: 286de14237 (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 二酸化酸素さん» ありがとうございます！嬉しいです！ (2021年7月21日 22時) (レス) id: b1e523f101 (このIDを非表示/違反報告)
二酸化酸素(プロフ) - 本当にゲームをしてるような気分になりました (2021年7月19日 1時) (レス) id: f6be19e74d (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 鈴華さん» 楽しんでいただけたなら幸いです(o´艸`)！こちらこそ閲覧頂きまして、ありがとうございました！ (2020年8月4日 23時) (レス) id: 5536140bcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小崎相良 | 作成日時：2020年2月23日 10時
