第廿陸話_考察 ページ40
今にも喧嘩になりそうな張り詰めた空気に、私は唾を飲み込む。淡々と話しているが、岩崎さんも太郎さんも機嫌が悪い。これは気のせいではないだろう。
太郎さんは引き止める岩崎さんに、岩崎さんは太郎さんの行動にそれぞれ苛々している。
「そうですか、では最後に一つ」
深く息を吐いて、太郎さんを見つめた岩崎さん。太郎さんは怠そうに目線だけを岩崎さんの方へと向けた。
「あなたの所属する大林組の棟梁の名前を教えてください」
「あ?」
「わかりますよね?」
「あんた、何が言いたい?」
怒気を含んだ声音に、身体がビクリとはねる。睨まれているのは隣にいる太郎さんの筈なのに、身体が硬直してしてしまう。
「率直にお伝えするなら、あなたを信用できません。Aさんを何処に連れて行くおつもりですか」
普段よりも低めのトーンで声を荒げることなく言う岩崎さん。
「……」
その言葉に太郎さんが唇を噛んでいるのが見えた。今まで私の隣で話していた人とは思えない程に表情が歪んでいる。太郎さんが苦々しい表情で小さく舌打ちをするその姿に驚くと同時に恐怖を感じ、岩崎さんを見つめる。
『い、岩崎さん?』
「……Aさん、おそらくこの男は大工ではありません」
「え、あの」
「わかりやすいのは彼の手です。大工をしていて、ここまで手の綺麗な方はいないとは言いませんが……少ないでしょう。それを私が確信したのは、棟梁の名を言えなかったところでですが」
『棟梁……ですか?』
岩崎さんの言葉に首をひねる。
私の言葉に岩崎さんは目線を合わせ、短く「はい」と答えた。その口調が太郎さんに向けるものとは違い優しくて、少し安心する。
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小崎相良(プロフ) - 閃光のまりあんぬさん» コメントありがとうございます!不定期な更新ですみません(>_<)藤田さんカッコいいですよね!少し不器用な優しさにキュンときます(o´艸`) (2020年2月20日 9時) (レス) id: b334f4b37a (このIDを非表示/違反報告)
閃光のまりあんぬ - とっても面白いです!! 更新頑張ってください! 楽しみにしてます☆ ちなみに私は藤田さんファンです…! (2020年2月19日 23時) (レス) id: 68c769878e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年8月13日 19時