第拾参話＿海の底 ページ18
私の言葉が届いたのか、川上さんの体から力が抜けた。
『川上さんっ？！』
とっさに体を支えようとしがみつく。
「Aさん！大丈夫ですかっ？！」
声を上げながら、芽衣ちゃんが慌ててこちらにかけてくるのが見えた。
「大丈夫ですか？！」
『うん。大丈夫』
そう答えるとホッとしたように芽衣さんが表情を緩める。
ふと川上さんへと視線を移すと、彼はぼんやりと客席を眺めていた。
『川上さん、起きてください！』
そう言って肩を揺する。振動を受けた川上さんは瞬きを繰り返した後、辺りを見回すかのように瞳を左右に動かす。
「……A？どうしたんだよ、急に舞台に上がってきたりして」
『？！』
あれだけ大騒動した挙句覚えてないとは……なんとも複雑である。当の本人はキョトンとしていて、現状を理解できているのかもわからない。というかできていない気がする。
「急にじゃないですっ！音二郎さんが物の怪に連れて行かれそうになっていたところをAさんが引き止めたんですよ！」
芽衣さんが目に涙を溜めて声を荒げた。
「……俺が？」
川上さんが確かめるようにこちらを見つめる。
私は同意の証に数回頷いた。
「今立ち稽古してて……なんだかすげぇヘンな気分だったんだ。自分の中身が、誰かとそっくり入れ替わっちまったような気がしてさ……」
まさにその通りだ。川上さんの中にいたのは白雪なのだから。
しかし私の思いとは裏腹に川上さんはへらりと笑って言う。
「おっかねぇけど、悪い気分でもなかったんだよな、これが」
なんて呑気な……
言いたい言葉は山ほどあったけど、ぐっと我慢した。
それよりも音二郎さんが帰って来た事に安心している。
「役になりきるっつうのが、ああ言う感覚なのかどうかわからねえが……。自分をからっぽにするってことだけはよくわかった」
「雑念捨てて、海の底みてえな……何にもない場所に立つことを言うんだろうな。きっと……」
『海の底……』
白雪さんの影響で深い青に包まれ、海の底にいるように感じていた音二郎さん。
その光景を外から見ていた私。私と音二郎さんは外からと中からで同じ光景を眺めていたのだと、そう思う。
『大丈夫ですよ、音二郎さんなら』
「！」
『次こそは音二郎さんとして、演じられるでしょう？』
私の言葉に、川上さんは「おう」と返事をする。
片方の口角を上げ、ニヤリと笑ったその顔は自信が満ち溢れていた。
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小崎相良(プロフ) - 閃光のまりあんぬさん» コメントありがとうございます！不定期な更新ですみません(>_<)藤田さんカッコいいですよね！少し不器用な優しさにキュンときます(o´艸`) (2020年2月20日 9時) (
レス) id: b334f4b37a (このIDを非表示/違反報告)
閃光のまりあんぬ - とっても面白いです！！ 更新頑張ってください！ 楽しみにしてます☆ ちなみに私は藤田さんファンです…！ (2020年2月19日 23時) (レス) id: 68c769878e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小崎相良 | 作成日時：2019年8月13日 19時
