第拾弐_唄 ページ17
侵食する青に、竜神・白雪に川上さんが乗っ取られてしまうような気がして。
川上さんが居なくなってしまう、
そう思った。
『ーー川上さん!』
「っ!Aさん!」
「ええ、煩いな、お前たち」
川上さんが抵抗するように身をよじる。
「「義理も仁義も心得て、長生きしたくば勝手におし。……生命のために恋は棄てない。お退き、お退き」」
『川上さん!目を覚ましてください!川上音二郎さん!!』
どんなに声をかけても、川上さんに声は届かなかった。
白雪には私のことが恋路を阻もうとする従者に見えているようで、薄い笑みを浮かべている。
白雪の力なのか、川上さんの手足がだんだん冷たくなる。
体温が奪われている……?
『?!』
感じたのは水中にいるかのような浮遊感。冷たくなる体にだんだん力が入らなくなってきた。離すまい、と、力の入らない腕で目一杯川上さんにしがみつく。
その時だった。
『『ーーねえ坊や。大丈夫。お帰んなさるわねえ』』
私から声が響いた。その言葉を言ったつもりはない。
しかしその声は確かに私が発していた。
……私ではない誰かが私の体で話している。
言葉から推測するに、先程舞台で観た夫の帰りを待つ “百合” の台詞だ。寂しさを紛らわすために人形を抱いて子守唄を歌っていた。
『『ねんねんよ……おころりよ……』』
舞台で観た一場面。たった一度見ただけだ。台詞も唄も暗記しているはずはないのに、口からするりと出てくる。
自らの行動に、唄に自分でも驚く。
『『ねんねの守はどこへ行った……
山を越えて里へ行った……』』
歌っているのは私の中にいる百合。
彼女が歌い、私が紡ぐその音に、川上さんが動きを止めた。川上さんの背後にいる白雪はまっすぐと私を見据えている。
「……恋しい人と分かれているときは、うたを唄えば紛れるものかえ」
聞こえてきたのは川上さんの声。
それを合図に、青く染まっていた着物から少しずつ少しずつ色味が戻っていく。
喜んだのも束の間、川上さんの瞳は未だに暗い闇を映したままで、感情が読み取ることができない。
心がここには無いようなそんな表情のまま。
『川上さん……?』
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小崎相良(プロフ) - 閃光のまりあんぬさん» コメントありがとうございます!不定期な更新ですみません(>_<)藤田さんカッコいいですよね!少し不器用な優しさにキュンときます(o´艸`) (2020年2月20日 9時) (レス) id: b334f4b37a (このIDを非表示/違反報告)
閃光のまりあんぬ - とっても面白いです!! 更新頑張ってください! 楽しみにしてます☆ ちなみに私は藤田さんファンです…! (2020年2月19日 23時) (レス) id: 68c769878e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年8月13日 19時