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第廿玖話_簪 ページ43

ずるずると引きずられて数分程。太郎さんは小さな建物の前で足を止めた。家にしてはシンプルな外観のそれは、大きな建物の裏側に建っていた。
外から見る限りでは明かりはついておらず、中が無人だということがわかった。
最後の抵抗として踠いてみるが、太郎さんが私の手を離す様子はない。口以外がまだ縛られていないのが救いだ。なんとか声を出せば誰かが……と考えたが、周りの音を聞いて声を出しても意味がないことに気がつく。この裏にある大きな建物がやたら騒がしいのだ。
大きな建物からはパーティーでもしているような賑やかな声が響いている。ここで声を出しても届かないまま終わるだろう。しかし、このまま中に入れられてしまえば、外から私を見つける術はない。

どうしたものかとか頭を捻っていると、簪で抵抗することを思いついた。幸い掴まれているだけで、縛られてはいないのだ。
思い立ったら一刻も早く実行しなければ。
体をよじると同時に腕を無理やり動かして、太郎さんの腕から片腕を逃す。そして、逃した腕でそのまま頭の簪を外した。
そのまま、簪の切先を太郎さんへと向ける。
妙案だと思ったのだが、太郎さんは私の行動には動じなかった。それどころか、その様子を見て嬉しそうに笑った。



「諦めの悪い女だなぁ!まぁ、それくらい元気なやつのがいいけどよ」



『?!』



太郎さんの行動に目を見開く。
私が向けた簪の足をにっこり笑って掴んだのだ。その笑顔に足が竦む。
この男の考えていることが手に取るようにわかった。何をしようとしているのかも。
簪を逃がそうと手に力を入れてもしっかりと握られているために動かない。



『!!』



「嬢ちゃん、諦めも肝心だぜェ?」



大きな音はしなかった。ぽきん、と小さな音を立て、簪の足が二つに折れる。
目の前で起きたことが、太郎さんのしたことが信じられなくて、目から涙があふれた。

どうしてこんな酷いことをするのか。

私が太郎さんに何をしたというのか。

きっと明確な理由はないのだろう。私という存在が太郎さんにとってちょうど良かったのだ。だから狙われた。
私に理解できたのは、太郎さんが“自らの利益”の為に私を売ろうとしているという事だけ。
体の力が抜けて、その場に膝をつく。
私はこれからどうなるのか。どこへ連れて行かれるのか。想像するだけで寒気がする。力なく座り込んだ私を担ぎ上げ、太郎さんは建物の中へと進んだ。


建物の前に折れた簪がポツンと取り残されていた。



.

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設定タグ:明治東亰恋伽 , めいこい , トリップ   
作品ジャンル:アニメ
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小崎相良(プロフ) - 閃光のまりあんぬさん» コメントありがとうございます!不定期な更新ですみません(>_<)藤田さんカッコいいですよね!少し不器用な優しさにキュンときます(o´艸`) (2020年2月20日 9時) (レス) id: b334f4b37a (このIDを非表示/違反報告)
閃光のまりあんぬ - とっても面白いです!! 更新頑張ってください! 楽しみにしてます☆    ちなみに私は藤田さんファンです…! (2020年2月19日 23時) (レス) id: 68c769878e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年8月13日 19時

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