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プロローグ ページ3

Aside


遠のく意識。


背中に広がる熱は、じわじわとわたしの感覚を奪う。






「A……ちゃ、ん?」






呼ばれる名前に、返事が出来ない。

吸う息も、吐く息も、苦しくて、目蓋は重くて開けられそうに無くて。


何か言葉を出そうにも、唇も動かない。


ただ出来るのは、わたしの腕の中にいる彼女を離さないよう、抱きしめる腕を強めることだけ___








そして、わたしからフッと、何もかも感覚が無くなった。









◇◇◇






気付けば一面花だらけの世界に立ち尽くしている。

瞬きをしても変わらない風景はどこまでも続いていた。




「夢?」

『おや?予定にない人間がいるじゃないか』




男とも女とも取れないヘリウムを吸ったかのような声が背中の方から聞こえる。

驚きで勢い良く振り返れば、そこに立っていたのは色とりどりの風船を手にしている不気味なピエロ。




「誰?」

『ここの管理人、アーンド神様』




ふざけたように返事をするピエロはくるくる周る。




『君はここに来る予定じゃなかったんだけど、来ちゃったらしょうがないよね』

「何言ってるの?ここはわたしの夢じゃないの?」

『じゃあ、思い出してごらんよ。君は夢を見る前はどんな状況にいたのか』




小首を傾げながら素っ頓狂な動きをするピエロは本数の足りない指でわたしを指差す。




『君は超!人気のアイドルbulletとして活躍。
その美貌と、類稀ない才能。多くの人々を魅了する君は、デビュー5周年のライブ終了後……_____




君自身の熱狂的なファンに刺されたんじゃないか』





そう、あの時わたしは、詩音ちゃんを狙ってた男から庇った、それで身体中の力が抜けて、感覚が無くなって……。

思わず自分の服装を見ればあの日と全く一緒。

じゃあ、此処は夢なんかじゃなくて……。


サァッと自分から血の気が引くのがわかる。
震える指先は冷たくて、もう誰にも会えないんだって思うと柄にも無く寂しさを覚えた。


わたしの心情なんか気にせずピエロは笑顔を貼り付けた仮面の影を落とし、奇妙な声で続けて言う。




『まぁ、本来なら恨みの対象だった詩音のほうが刺されてる筈なんだけど』




瞬く間に迫ってきたピエロの顔はわたしとの距離がほぼゼロに近く、顔を引きつらせながら思わず後ろに一歩引く。




「詩音ちゃんが刺されてる筈だったってどういうこと?」




わたしの震える声に目の前のピエロは不気味に笑った。

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作者名:バンビ | 作成日時:2020年9月13日 22時

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