第12話 ページ15
春歌side
2人で部屋に入り各自で荷物の整理をするのだけれど、わたしの荷物に比べて夜久さんの荷物が少な過ぎる！
本当に最低限のものだけっぽくて、思わず整理している姿を覗き見てしまう。
わたしも律夏ちゃんに比べれば荷物少なかったけれど、わたし以上に少ない夜久さんは何を持ってきているのかなぁ。
「何か気になる事あった？」
いきなりの言葉に、持っていた目覚まし時計が手の中で跳ねた。
落とさない様にあわわと掴み、意を決して思っていた事を口にする。
「荷物、少ないなぁと思っていまして」
「そう、だね」
「夜久さん？」
急に歯切れの悪くなった彼女の方を見れば、何も入っていない銀色のフォトフレームを手にしている姿があった。
ほぼ片付いてしまっている彼女が寂しそうに見つめる姿に聞いてはいけない事を聞いてしまったのかもしれないとわたしは後悔をする。
「……、思い出がなきゃ、こんなもんなんだな」
ポツリと呟かれた言葉はよく聞こえなかった。
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Aside
元々荷物は少ない。
部屋もシンプルだったし、彩っていたのは楽との写真だったり誕生日プレゼントだったり。
bulletとして活動している時のCDだったり、詩音ちゃんとの写真だったり、思い出が飾ってあった分だけ彩りがあっただけ。
それがなくなっただけで、こんなにも一気に殺風景になるとは思わなかった。
違う世界に来れば居ない人間との思い出までは存在しない事になるとは考えれば当たり前の事。
唯一手元にあるこの銀色のフォトフレームは、自分で買って楽との写真を入れていたもの。写真自体は消えてしまったけれど、ここにはまだ異母兄妹だって知らなかった頃のわたしと楽が笑って映っている写真があった。
他のフォトフレームは全てひとつに纏めてしまったけれど、これだけはどうしても纏められず。
異母兄妹じゃなくしてくれる。
そんな願いも叶えられると言われ、これだけは纏められなかった。
この頃に戻れたらって、何度も後悔したから。
「聞いてはいけないこと、でしたか？」
弱々しいしい声が聞こえて来る。
勢いよく振り返れば、眉を下げる彼女。
その彼女がどうしてか小鳥遊 紡と重なった。
「いや、平気だよ」
どうしてだろう。
似ても似つかない2人が重なったのは。
わたしが今更、楽との幸せを夢に見ているからだろうか？
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作者名：バンビ | 作成日時：2020年9月13日 22時
