花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第５０話　お近づきのしるし ページ7

すみれの言葉に、元親はぱちくりする。


「何って……独眼竜、このお嬢ちゃんは一体……」


政宗はすみれの横に座り哀れむでもなく、優しい目をしてすみれの頭にポンと手を乗せる。


「記憶がねえんだ、こいつ。森に倒れていたところを小十郎が拾ってきてな。意識を取り戻した時は、綺麗にさっぱり何も憶えていなかった。『すみれ』っていうのは、仮の名前だ」


「政宗さんの仰る通り……」とすみれは苦笑いして言葉を発する。


「わたし、いろいろな事を忘れてしまっているんです。家族も故郷も、自分自身の事も、先程の『トモダチ』という意味も分からなくて……。厄介で煩わしいかもしれませんけど、こんなわたしでも、トモダチになってくれますか？」

「もう友達だよ！」


すみれが不安げに言うと、慶次は当然だと言わんばかりに大きな声で言った。


「一緒に喋ったり、飯を食ったり、困った時助け合うのが友達なんだ。分からない事があったら、いつでも俺に相談して。力になれるか分かんないけど、すみれの記憶が戻れるよう協力するよ」

「俺も協力するぜ！ 独眼竜のダチなら、他人行儀なんてできねえしな。俺も何か情報掴んだら報せてやるよ」

「ありがとうございます、慶次さん。元親さん」


二人の心遣いに、すみれは笑みを見せてお礼を言った。


「んじゃま、お近づきのしるしとして、四国で捕った魚を振る舞ってやるか！ 独眼竜、厨房借りるぜ」

「俺も手伝うぜ」

「では、わたしも……」


すみれは、厨房に向かおうとする二人をついていこうと立ち上がろうとするが、慶次と一緒に部屋で待っていろと政宗に制される。


「せっかく贈られた新鮮な魚を、誰かさんに丸焦げにされちゃ溜まんねえからな」


意地悪な笑みでそう付け加えると、政宗は元親と一緒に厨房へ向かった。
その【誰かさん】は怒りと羞恥に顔を真っ赤に染め、廊下を出て政宗の背中に向けながら「余計なお世話です！」と叫んだ。

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