花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第７６話　頼る勇気 ページ33

「黙ってここを出ていくつもりだったんだろ」

「……」


ぐっと唇を噛み締めるすみれ。
やはりなと内心呟き、小十郎は軽く溜め息を吐く。


「ここにいれば主の消息が分かる可能性が高まる。一人で捜すより、ここにいた方が情報が早く掴めるんじゃないのか」

「……そうかもしれません。でも、これはわたしの問題で……関係のない小十郎さん達を巻き込むわけには……」

「もうとっくに巻き込まれている。誰にも頼らずになんとかしようと心意気は立派だ」


だがな、とすみれの両肩に手を置き小十郎が言葉を継いだ。


「今は、誰かに頼る勇気の方が必要なんじゃねぇのか」

「頼る、勇気」


意外な言葉に、すみれは呆けたような顔で目をしばたたかせた。


「自分だけでできる事はどうしても限界がある。そういう時は、素直に助けを求めていいんだ。迷惑をかけたくないなんて思わなくていい。俺はいつでもお前の味方だ」

「……小十郎さんは、どうしてそんなに優しくしてくれるんですか？」


小十郎は節くれ立った手で、すみれの頬を添える。


「俺がお前に優しくするのは……」


小十郎は何か言いかけたが口を噤(つぐ)んだ。
その先の言葉が何なのか分からず、すみれはじっと彼を凝視し、待った。


「小十郎さん？」


反応しない小十郎に不安を覚えすみれが声をかけると、小十郎は我に返り添えていた手を彼女の頭に置いた。


「言ったろ、『お前の力になりたい』と。拾ったのは俺だ。俺が責任を持って、お前を守り、必ず主人の元へ送り帰す。だからそれまで、絶対に俺の傍から離れるな」

「はい」

「いい子だ」


素直に答えると小十郎はすみれの頭を撫でながら優しく微笑んだ。
もう遅いし部屋まで送ろうと小十郎が腰を上げようとした時、不意にすみれは小十郎の袖を掴んだ。


「すみれ？」


声をかけると、すみれは恥ずかしそうに顔を赤らめながら上目遣いで見つめてきた。


「その……今夜だけ、小十郎さんと一緒に寝たいです。駄目……でしょうか？」

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