花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第７５話　見え透いた嘘 ページ32

「……でも不思議ですね。先程まではトンボ玉を失くして焦っていたのに、今は落ち着いているんです。戦闘に逃亡、川に流され、また逃亡に戦闘、更に二ヶ月も経てば見つかる可能性は無いに等しい。状況が状況だったから失くすのは仕方ないと蓮様は許してくれるでしょうけど……」


膝の上に両手をぎゅっと握り締める。


(蓮様がわたしを許しても、わたしはわたしを許せない……)


脳裏によぎるのは、鮮血を舞い重傷を負った蓮清の姿。道具なのに役目を果たせず、主に庇われて生まれた罪悪感と自己嫌悪。
主を守るために存在する道具の筈が、逆に主に守られ負傷し、挙げ句の果てにははぐれてしまった己の失態。
彼もどこかで親切な方に助けられて面倒を見てくれているだろうか。そうであってほしいとただ願うばかり。
しかし、一瞬でも消極的な事を考えてしまうと不安と恐れが一気に膨張した。


(……もし、もう二度と蓮様に会えないと叶わなかったら、わたしは……)

「大丈夫か？」


いつの間にか俯いていて、大きな手が頭を優しく置かれる。小十郎の手はそのまますみれの頭をそっと撫でた。
大丈夫かと問われるほど、手の温かみを感じるほど、涙腺が緩みそうになる。
泣いては駄目だ。泣いたらまた彼の優しさに甘えてしまう。
同盟を結んでいないのに助けを求めてしまう。立場も、身分の差が違いすぎるのに。陽が昇る前にここを出なければ。これ以上迷惑をかけたくない。
再び込み上げてくる涙が出ないように、すみれは顔を上げて笑顔で取り繕った。


「大丈夫です。小十郎さんに話を打ち明けたら楽になりました。もう平気……」

「なんで、お前は嘘つく時そうやって無理して笑う」


低い声で、怒ったように呟く。


「嘘なんか」

「何が平気だ、大丈夫だ。泣きそうな面(ツラ)してるくせに平気なわけねぇだろう！」


図星で、すみれは口を噤(つぐ)み小十郎から視線を逸らした。

第７６話　頼る勇気→←第７４話　経緯（いきさつ）

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