花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第７４話　経緯（いきさつ） ページ31

すみれはようやく落ち着いた後、追っ手に追われるまでの経緯(いきさつ)を小十郎に話し始めた。


「……先も話した通り、わたしは花染蓮清の忍として仕えていました。蓮様から大事な話があると呼び出されたわたしは、彼の部屋に訪ねました。ですがその話の途中、突然何者かの襲撃を受けたんです」

「敵の正体は覚えてないのか？」

「記憶がすべて戻ったわけではないので……ただ一つだけ分かるのは、相手は相当の手練れだったんです。並みの賊なら造作もないのですが、あれと戦った時は苦戦を強いられました。家臣も次々と倒され、蓮様も深手を負ってしまい……。蓮様を連れてなんとか館を脱出しましたが、敵に見つかるのも時間の問題。蓮様は、自分を置いて逃げろとわたしに命令しました。わたしは頑なに拒みました。絶対に死なせない。蓮様を抱えて逃げて、逃げて、逃げ続けて……そこからの記憶がぷつりと切れて何も思い出せないんです」

「追っ手に追い付かれて襲われたりは」


分かりません、と首を横に振るすみれ。


「朧気(おぼろげ)で所々記憶が途切れている事が多くて……気づけば翌日になっていて、わたしは川の畔(ほとり)に倒れていました。足を踏み外して川に落ちたのか分かりません。ひょっとしたら蓮様も一緒に川に流されて別の場所に流れ着いているのかもしれない……そう思って捜しましたが、途中追っ手に見つかりわたしは脇目も振らずに逃げました。まともに眠っている暇もなく、体力も限界がきて……ついに追っ手に囲まれてしまいました。もう逃げる気力も抗う気にもなれず、諦めて捕まろうと思いました。……けれど、ふと思いとどまったんです。本当にこのまま何もせずに終わるのか。蓮様を傷付けた敵を報復しなくていいのか……。小十郎さんもあの惨状を見た通り、わたしは暴力にも似た虐殺をしました。相手が戦意喪失をしても殺すまで追いかけ、命乞いをしても容赦なく殺し、手足のみならず頭部を斬り落とし……力尽きるまで殺しました。全員始末したと思ってたのに、まさか一人だけ殺し損ねたとは気付きませんでしたけど。それから小十郎さんに保護され……」

「その三日後、目覚めた時は記憶を失ったすみれに出会った……というわけか」

第７５話　見え透いた嘘→←第７３話　守れなかった

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