花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第６９話　嫌ではありません ページ26

あと少しで触れる、もう小十郎の吐息を唇に感じる事ができるという程スレスレに近付いた時に、けれど小十郎の動きは止まり眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せた。


(何故、抵抗しない……？)


普通なら好きでもない相手と口づけされるのは嫌がる筈だ。なのに彼女は、小十郎を突き飛ばそうともせず、従順にその行為を受け入れようとしている。


「……馬鹿野郎が」


極力小さな声で呟くと、すみれの頬に添えた手を離した。


「お前、そんなんじゃ好きでもない男といいようにされちまうぞ。無防備だと言ったばかりだろ！」


小十郎は眉間の皺を更に深めて怒った。


(そんな事言われても、どうしたらいいか分からない)


あんな風に迫られて、突然の事で拒否ができるわけがない。


「怖かったろ」

「え？」


小十郎はすみれのはだけた衿の袷(あわせ)を直して、言った。


「いきなり押し倒されて、肌を晒(さら)されて嫌だったろ」


先程小十郎にされた行為をすみれは思い返す。


「……正直怖かったです。突然の事でびっくりしたし、どうしたらいいか分かりませんでした。……でも」


彼に押し倒されたり、触れられたり、強引に迫られるのは。


「嫌では、ありません」


すみれの頬が紅く差し、小十郎から目を逸らしながら言葉を紡いだ。


「小十郎さんになら……何をされてもいい、ような気がして……」


最後の方は聞き取れるかどうかの小さい声になってしまったが目の前の彼はしっかり聞き取っていたようで、その予想だにしない言葉を思わず絶句した。

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