花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第４６話　前田慶次 ページ3

不意に、どこからか別の男の人の声がして、すみれはきょろきょろと見回す。
どこにもそれらしき人物が見当たらない。
上を見上げると、二階の建物から大きな羽飾りに派手な衣装に身を包んだ青年が飛び降りてきて――派手な音を立ててうつ伏せで落下した。


「……だっ、誰だこのバカは」


青年はむくりと、顔を上げて起きる。


「っつ〜〜、俺は前田慶次！ こいつは夢吉！」

「ウッキー！」


慶次の懐から出てきた小猿の夢吉が出てくる。


「けっ、誰だか知らんが……このバカも女と道連れに……うっ！」


起き上がった慶次の体躯(たいく)は男よりも身長が高く、圧がある。


「喧嘩ならいい。止めはしないよ。でも――」


背中に掛けてある身の丈を軽く越える長さを持つ巨大な刀の柄を掴む。


「命のやりとりは、絶対に駄目だ！」


一瞬、すみれは何が起こったのか分からなかった。
気づいたら男は吹っ飛ばされて建物にぶつけて気絶していた。
あんなに大きい刀を簡単に振り回してしまうとは、ただの通りすがりの青年だとは考えにくい。一体何者だろうか。


「あんた、大丈夫？ 怪我はない？」


急に声を掛けられてすみれは我に返り、立ち上がって頭を下げる。


「はい。助けて頂きありがとうございます」

「良いって事よ！ 困ってる人を放って置けないタチだし」


慶次はニカッと人懐っこそうな笑顔を浮かべた。


「にしてもあんた、別嬪さんなのに度胸あるねー！ 男の急所を蹴るなんて思わず身震いしちゃったよ。けど、男勝りな女は嫌いじゃないぜ！」

「あ、ありがとうございます」

「俺は前田慶次。こっちは夢吉。お嬢ちゃんの名前は？」

「わたしは、すみれといいます。よろしくお願いします」

「すみれちゃんか。可愛い名前だな。よろしく！」

「あの前田様、何かご馳走させて下さい。助けて頂いたお礼がしたいんです」

「えっ、いいの！？ じゃあみたらし団子が食べたいな！」

「みたらし団子ですね。近くに美味しい甘味処があるんです。案内しますね」


慶次を連れて、以前立ち寄った甘味処に向かった。

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