花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第６１話　花染蓮清という人物 ページ18

「蓮様……花染蓮清様と出会ったのは、六年前になります。蓮様に拾われるまで、わたしは独りで生きていました。どこで何をしていたのか憶えていません。気がついたら、ずっと独りでした。本当の名前も分かりません。親の顔も、生まれも、文字の読み書きも、言葉の意味も分からないほど、わたしは口が利けない子どもでした。そんな空っぽのわたしを蓮様が『すみれ』という花の名前を与えてくれました。文字の読み書きも、言葉の意味も、作法も教えてくれました。初めて目にするもの、初めて聞くもの、初めて触れるもの……わたしの知らないたくさんの初めてを蓮様が教えてくれました。蓮様は、わたしにとって光であり、特別な存在なんです」


すみれは伏し目がちに言うとはにかむように微笑んだ。
慶次が、花染蓮清はどういう人物なのか興味津々げにすみれに聞いてきた。
すみれは言葉を探して悩んでいると、ふとちらりと小十郎を見る。
見た目が瓜二つだ。
精悍(せいかん)な顔つきが、横顔が、黒髪が、大きな手が、広い肩幅が、長い手足が、細い腰が、似ている。
瞳の色は違うのに、なぜこうも吸い寄せられるように惹かれてしまうのだろう。


「すみれ？」


横顔の小十郎が、顔だけすみれの方に向いて目が合う。


「どうした。俺の顔に何かついているのか？」

「いえ……」


顔を逸らし、


「前に『似ている』と言った言葉を覚えていますか？」


小十郎は首をひねって考え込むように黙すると、あの時の事を思い出し「ああ」と答える。


「あの時、どうしてその言葉が出たのか分からなかったんですけど、その意味がやっと分かったんです。お二人の容姿が似ているんです」


再び小十郎に顔を向け、唄を歌うように言葉を紡ぐ。


「整った精悍な顔立ちで、小十郎さんの髪とはまた色味が違う、黒髪で……年齢は聞いた事がありませんが、恐らく小十郎さんと同じくらいかと。瞳は……」


空のように澄んだ。


「青色の瞳で……」


睡蓮の花のように。


「美しい人で……」


水のように透き通った、心が美しいその人を。


『その色で良かったのか？』


追憶の中から、碧眼の青年の声が脳裡(のうり)に再生される。

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