花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第５９話　思い出さなくていい ページ16

すみれは、自身の体を見落とす。


「湯浴みをしている時、ふと目に入って考えてしまうのです。どうしてわたしの体に刀傷の痕があるのか……それに、見える筈がないものが見えるんです」


次いで、手のひらを見つめる。


「……汚れているんです。わたしの手に血が染まっているんです」


震える両手で自身の体を抱きしめる。
なぜ自身の身体に傷痕があるのか。なぜ血まみれの自分が映っているのか。
考えれば考えるほど恐ろしい想像を思い浮かんでしまった。
【これ】はそういう意味なのではないかと。


「わたし……」


この傷痕は。


「わたし……」


この血まみれは。


「わたし……」

「大丈夫」


不意に大きくて温かな腕に包まれて、すみれの体はぶるりと身震いした。


「大丈夫だ」


小十郎の優しい声。


「お前は汚れていない。とても綺麗だ。何も悪い事していない。だから、大丈夫だ」


語りかける小十郎は、すみれを大切な宝であるかのように抱きしめる。


「小十郎さん……わたし……怖いです」


小十郎に抱きしめられながら、すみれは震える声で囁いた。


「昔……とても恐ろしい事をしたのかもしれません。それが何なのか思い出せないのです。でも、思い出すのが怖い……」

「なら思い出すな」

「え」


小十郎から離れて、すみれは顔を上げて小十郎を見る。


「怖いなら思い出さなくていい。無理に思い出そうとするな。思い出したって、ずっと苦しい思いを抱え込まなきゃならねぇ。昔のお前の事なんて知らなくていい。前も言ったろ。『記憶がなくても、お前はお前だ』。俺は今の、そのままのすみれがいいんだ。優しくて誠実で、素直で謙虚で、頑張り屋でドジなお前が」


意地悪な、けれど低く甘い声で小十郎は笑みを浮かべた。


「ドジは余計です」


すみれは一瞬頬を染めるが、『ドジ』と言われむくれた顔をする。
でも、と言葉を続け、


「ありがとうございます。小十郎さんのおかげで気持ちが軽くなりました」


花が咲き綻ぶように笑った。
その笑顔を見て、小十郎も微笑み返した。
やはり彼女は笑顔がとても似合う。萎(しぼ)んだ顔なんて似合わない。
笑顔の花を咲かす彼女を枯れないように、守っていきたい。

第６０話　特別な存在→←第５８話　不幸な境遇

• 金　運: ★☆☆☆☆
• 恋愛運: ★★★☆☆
• 健康運: ★★★★★
• 全体運: ★★★☆☆

ラッキーアイテム

革ベルト

ラッキーカラー

あずきいろ

ラッキーナンバー

8

ラッキーアルファベット

X

ラッキー方角

西 - この方角に福があるはずです

おみくじ

おみくじ結果は「末凶」でした！

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す