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前方25mといったところだろうか
治くんの手を握る元カノさんは一生懸命何かを話している
ああやって見ると悔しいけど美男美女だよな…
本当は堂々と隣に立っていたい
だけどそんな立場じゃないしお邪魔したくない
根っこにある恋愛に消極的な自分は
やっぱり変えられないみたいだ
『あーあー』
ベンチに全体重をかけて頭を背もたれに預け、見上げた高すぎる天井の明かりは
予想以上に眩しくてクラっとした
そのまま見上げていたら
音もなくぬっと視界に現れた治くん
『あ、おかえりなさい』
「ん。…なんで勝手にどっか行くん」
治くんはベンチの正面へ回り込み、私の隣に座った。肩が触れ合う距離で。
『お邪魔かなあって』
ちょっと不機嫌そうだった彼の口元が弧を描いて
次第に意地悪な表情へと変わっていく
「嫉妬か」
そうだよ、そうに決まってる。それ以外にないじゃない
私の顔を覗き込む治くんは心做しか楽しんでいるように見える
『そりゃ、ねぇ』
好きな人が他の女とベタベタしてたら嫌じゃないですか普通に
未だ数メートル先に居る元カノさんからの視線が痛い。
きっと彼女も嫉妬してる。罪な男だな、宮治さん
『ま、治くんがモテるのは重々承知』
女が放っておかないってこういう人の事なんだと思う
余裕なんてないけど、頑張ってへらっと笑顔作ってみた
「そんな治くんは今日、Aちゃんとデートなんやけど」
『…デート』
「おん。ごめんな、一人にさせて」
行こ、と私の手を絡め取り腰を上げた治くん。これは…恋人繋ぎというものではなかろうか
私の機嫌を取ってくれようとしてるんだろう。いい大人になって人に機嫌取ってもらうなんて…不甲斐ない
だけど一瞬にしてモヤモヤが吹っ飛んだ私、ちょろい
治くんの事になると本当に単純だわ
『…ねえ治くん、こういうのは、さ』
「ん?」
私はゆっくりスピードを落とし、足を止めた
治くんもつられて止まった
『勘違いしちゃうから、ダメだよ
私さこういう事されたらすぐ舞い上がるし
周りの人にもそういう関係に見られちゃうし』
「…せやなぁ」
スっと離れた手。先程まであった温もりが無くなって、寂しい
「でもちょこまかされても困るし」
そう言って私の肩を抱き、また歩き出す治くん
手を繋ぐよりハードル高くないですか。近くないですか
離れてくれないって事は、自惚れてもいいですか
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作者名:OX | 作成日時:2021年8月27日 8時