The Last Tycoon ２ ページ38
『制御端末を使うしかない。左に進んで吹き抜けの先じゃ。無論、警備は厳しいがな』
メルヴィルの答えを聞いた途端、
『全員避難したのなら、何故、貴方は残っているんです？』
『何故かな……』
小さな溜息が聞こえた気がした。
『かつて白鯨は空を泳ぐ異能生命体じゃった。それを組合が空中要塞に改造した。その白鯨が異国の地に落ちて人々を皆殺しにするなら、せめて……儂も共に落ちようと思う』
組合の元団長は今、どこを見ているのだろうか。空の青か、海の青か。過去に見てきた街か、今の横浜の街か。
『機械の体になる前の
風や衣服の擦れる雑音の遠くから、乾いた鉄の音が聞こえている。念の為、移動中でも通信は切らずに移動して貰っている。
そんな最中、呼出音が鳴った。
太宰さんは通話釦を押し、「はい」と応答する。
『ご機嫌かね、太宰君』
声が聞こえた途端、太宰さんは返事もせず、珍しく物凄い形相で通信を切ろうと手を伸ばした。それを日頃の行いから察したのか向こう側からは『待て、切らないで』と慌てて制止する声がした。
「何ですか、森さん。マフィアには探偵社の作戦の邪魔をしないよう協定を結んだ筈ですが」
『その協定だが、今、部下から報告があってねぇ……』
一先ずは通話を切られずに安心したのか、あからさまにほっとしてそうな声が返ってきた。だがそれも直ぐに固い声に変わった。
『守れそうもないのだよ』
それと同時に敦君の方から、
『芥川……！』
『人虎……！』
と驚きと怒りが絡み合った声が聞こえて来た。
首領の報告を聞いた太宰さんはそれだけ聞くと直ぐに通信を切った。相変わらず容赦ないなとは思うが、この作戦においては完全な雑音なので止めることはしなかった。
『あぁくたがわぁああああ！！』
『人虎……！』
ざあざあごつごつとした音が激しくなって、何かと何かが激しくぶつかりあった。
『小癪』
風を切る音にまたぶつかる音。ある程度戦闘音が落ち着いた頃、また芥川君の声が聞こえた。
『曲芸の腕は上げたようだな人虎』
『芥川！ 何をしに来た……！』
『貴様を殺しに』
空虚だった。声を聞いているだけで、ぽっかりと空いた虚を覗いているような気分になる。何処までも深く暗い虚。
私は元凶である隣の人物を睨み付けた。太宰さんは私の視線に気付くと、そっと目を逸らした。
The Last Tycoon ３→←The Last Tycoon
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 416人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夢秋(プロフ) - 百笑咲夜さん» お恥ずかしながらその事実を全く知りませんでした。二次創作自体グレーなものですので、今後お気をつけて楽しい創作ライフを送ってください！ (2023年1月21日 0時) (
レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
百笑咲夜 - 初コメ失礼致します。プリ小説というアプリで活動していた者です。感想じゃなくてすみません。主様の作品とほとんど同じ内容の小説をプリ小説で書いていました。すぐに小説は削除します。大変申し訳ございませんでした。 (2023年1月7日 19時) (レス) id: f1d74042d6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - ユキさん» 応援ありがとうございます！ クトゥルフのSANチェックがアレですからね……そして夢主ちゃん、元々勝手に姉を名乗っています。どこかの十人兄弟の長兄のようになってますw (2021年8月19日 21時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - とても面白いです！SAN値チェックがあったの笑いました。「どけ！！！！私はQちゃんのお姉ちゃんだぞ！！！」が好きですｗｗｗ１D１０/１D１００には驚きました。ラヴ君、恐るべし・・・。頑張って下さい！最新待ってます！ (2021年8月19日 21時) (レス) id: c2037b5d01 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - 夢女子S氏さん» ありがとうございます！！ やったー！！ 頑張ります！ (2021年8月13日 2時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夢野秋 | 作成日時：2021年8月7日 20時
