プロローグ ページ1
母の手は優しくて、柔らかくて…とても温かかった。
木漏れ日の中、母の言った言葉はよく覚えていないが…母は笑っていたからきっと、何か嬉しいことがあったのだろう。
『大丈夫、貴方のことは……あの人がきっと守ってくれるから』
喪服━━━死者の近親者が喪にある期間着用する衣服。
母の微笑む写真を前にして、涙を拭い、鼻水をすする人が多くいる。幼い私は、母の写真を前にして、母の冷たくなった肉体を前に何を思っただろう。
「さあ…A、お母さんに挨拶して」
多少ウェーブのかかったブロンドを揺らしながら、綺麗な青い瞳に涙を浮かべながら祖母が言う。私も持ち上げられるほど体重は軽くないし、ちゃんと立てる歳だ。
母の血色のない顔を見て、私はふっと意識が飛んだ。
「A!」
祖母の悲鳴に似た声が葬式会場に鳴り響いた。
目が覚めるとそこは真っ白な天井だった。身体を起こして自分の手を見ると、小さいな、と思った。━━━━このとき自覚したのは、自分が転生者であること。そしてこの世界は、私が子供の頃からずっと好きだった作品…イナズマイレブンだと。
段々とハッキリした意識の中、私は素足で病室の床に足を付いた。それと同時に病室の扉が開いた。
「! …A、目が覚めたのか」
「おとう、さん…?」
入ってきたのは喪服に身を包んだ父だった。
父であるその人は、背がまだまだ低い私の目線に合わせるように屈み、膝を床につけ私の頭を優しく撫でた。
「お前はこれから、おばあちゃんとおじいちゃんと一緒に住むことになる」
「え……」
幼い容姿、大人な観点を持った私にはそれが何を意味しているか理解できた。
「…どうして」
素足の自分の足元を見つめる。うじうじと指が動く。━━━━嗚呼、不満なんだ…私。
「悪いな。…手紙は送る。だが、二度と会うことはないだろう」
「…おとうさん……わたしのこと、きらい?」
「……いや…」
父の瞳はサングラス越しにも分かるほど困っていた。
それはそうだろう。実の子供に「嫌いか」と問われて困らない親はいない。けれど「二度と会うことはない」なんて言われたら、成人した子供でも「嫌いになったか?」と聞く。だって私はおとうさんが大好きだ。
「いいや、大好きだよ…愛している、A」
父の涙を見たのは、このときが最初で最後だった━━━━━━。
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活字不足卍(プロフ) - 書いてる (2022年6月9日 1時) (レス) id: 63abfde266 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - この話好き!pixivでも書いてますか? (2021年1月23日 8時) (レス) id: 9679665185 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:活字不足卍 | 作成日時:2019年3月31日 1時