第九章 ｾﾝﾀｸ ページ43
いつもとは反対側のベッド脇、病室の窓際に立って僕は君に声をかけた。
「リハビリ後で疲れているのに、押し掛けてごめんね」
君は頭を振って言葉を促した。いつも通り柔らかい表情には、最初の頃とは違う落ち着きを払った冷たさがあった。抗うことを止めたような、冷めた顔。
「今日は烏丸さんに伝えないといけないことがあってさ」
しかし、話し出してすぐ君は表情を変えた。僕の視線はしっかりとそれを捕らえ、僕は小さく笑みを浮かべる。
「正直に話すよ」
「僕は、このまま烏丸さんが僕のそばに居てくれることを望んでいる」
微かなシーツの擦れる音と、外から流れ込む風の音が沈黙を埋める。
都会のビル街が先の空にいびつな影を描いていた。筆で白い絵の具を散らしたような雲が流れ、雀がそれらを追い越し飛んでいく。
「一緒に居たいと、心の底から思っているよ。その為に、僕の学校に入学する為の手続きだって進められるようにしてある」
固まったように動かない君は、まるで瞬きをする子ども用の可愛らしい人形のようだ。
僕は視線を逸らして、窓の外の止まることのない景色を瞳に映しながら物語でも語って聞かせるように、ゆっくりと言葉を並べた。
「ねぇ、烏丸さん。君は覚えているか分からないけれど、今からずっと前に僕達は会ったことがあるんだよ」
遠い昔に。僕は意味深げに強調して生え揃った睫毛をはためかせた。
「あの時僕には君が特別に見えた。現実に抗って前を向くような、強い人間に見えたよ。…そして僕は君が、施設から出て自由に過ごしていると思っていた」
だけど君は。そこで一旦言葉を飲んだ。君を月光エレクトロニクスの資料で見つけた衝撃は記憶の中で膨れ上がり、僕に大きな後悔を植えていた。
「…君は全てを奪われ、振り出しに戻ったかのように空っぽになっていた。あの施設で、僕は誰より君の側に居た筈だったのに君を助けられなかった。偽装工作に欺かれ救い出せなかった」
遠くに並ぶビルの群れに、あの忌まわしい記憶が未だに堂々とそびえている。窓のサッシに無力にも爪を立てた。
「僕の手で、今度こそ君を救いたかった。君が幸せに過ごせるよう支えることが僕の責任だと思ったんだ。でも君と過ごすほど、僕の感情は膨らんでいった」
病院で再会した日から数ヶ月。初めて出会ってから十年程。僕はやっと自身の感情と向き合い、受け入れることを選んだ。
ラッキーカラー
あずきいろ
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
