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第十六波 ページ17

「…本日をもって、衆議院を解散致します」

衆議院解散。国難突破解散。その二文字が脳裏で響きながら染み込んでいく。習わしで出る「万歳」の台詞は、ほぼ吉良の心情に合っていた。
会議場の下中央に立つ阿保は、重圧に耐えながら冷静さを装っているように見えた。
…安心しろ、その重圧は全部私が背負ってやる。そして空を飛べるくらい軽くしてやる。
はたからすれば親切に聞こえる台詞を内心に吐き捨て、吉良は体の底から湧き上がる歓喜に似た何かを無表情の下で抑えた。
この後で民衆の支持を得てしまえば、後は思い通りなのである。点から線へ、そして平面図形にした設計図は、まもなく立体となる。
「…万歳!」
吉良は周りに合わせ、最大限の声で叫んだ。


確かに、設計図が立体となるまでもう少し。
だが、立体にするのに土台を疎かにすれば、何かの風を受けた時に崩れる。土台の強化も勿論であるが、もう一つ。風を吹き自分を崩そうとする「何か」を完全に取り除く事である。しかしこれも、簡単ではない。
なぜなら、立体…線を構成する点の数に限りがあるからである。ならばどうするか。
机上に並べられた積木を想像すれば、答えを出すのは意外と簡単だ。風吹く「何か」の積木を壊して、自分の立体に取り込んで仕舞えばいい。

…さて、どう叩き潰すか。
彼は今、机上にある立体を眺めているのだ。
首相に次ぐ権力という金槌で、手を軽く叩きながら。

やがてぞろぞろと本会議場から出て行く議員達の波に乗り、吉良達も退場した。
廊下で先に出た議員達とそれなりの距離があるのを確認してから、吉良はふいに隣の山吉に呟いた。

「この制度を考えた奴は大馬鹿だな」
「この制度…と言いますと?」
「将官が軍を指揮し、佐官が政治を監視する制度さ」
「ああ…。成立したのは何年前でしたっけ」
「もう忘れたさ」

吉良は呆れるように鼻で笑って、続けた。

「作った時にわからなかったのかね…いかにも馬鹿らしい制度だということが」
「軍を統帥する将官を政治に置いて、完全な軍閥政治になってしまうのを防ぐ為では?」
「どうだか…まぁ、一旦その話は置いておくか。わざわざこの話題を出したのには別の理由があるのさ」

瞬間、山吉の目が変わった。どうやらこれからの衆院選についてだと察したらしい。
こう察しがいいと、話も進めやすい…と内心呟きながら、吉良は小声で言った。

「この制度に対して不満を溜めている軍上層部を煽る」

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嵩画鯉城@トラ!トラ!トラ!(プロフ) - 月読命さん» ありがとうございます(o^^o) そうなんですね〜、死後百年ですか…この小説の舞台は若干微妙な年代なので、その辺り気を付けて書いていこうと思います。 (2017年10月6日 18時) (レス) id: 3ce9c05f06 (このIDを非表示/違反報告)
月読命 - 更新がんばってください!ちなみに歴史上の人物の場合、死後およそ100年で名前をかってに使われない権利みたいなのが消えるみたいです。 (2017年10月2日 20時) (レス) id: 3990fcd378 (このIDを非表示/違反報告)
蘭秀@ニイタカヤマノボレ(プロフ) - あんこ(ろ)餅さん» コメントありがとうございます。歴史上の人物を使用する場合はオリフラを外す必要はない、と聞いたのですが…。ちなみにww2の内容については実在する団体は一切使用しておりません。 (2017年6月19日 7時) (レス) id: c435ca72cc (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(ろ)餅 - これはオリジナルですか?実在する団体などを使用してる場合はオリジナルフラグを外してくださいね (2017年6月19日 7時) (レス) id: db0d61df1d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蘭秀、鯉城 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年6月11日 19時

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