検索窓
今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:6,542 hit

第八波 ページ9

店を出てまた大通りへ向かう間、山吉はあの優男が脳裏から離れず、ずっと考えていた。

…彼奴は誰だ。
何処かで見たような気がするが、思い出せない。ならば何処で会った?
かつん、と道端の石を蹴る。石はころころ転がって、道の端の溝にぽちゃんと落ちた。

止めだ、止め。
こんな事を考えていてもどうにもならない。
しかし山吉の脳裏の視点は、優男のその隣へと移った。…あぁくそ、この頭はどうして言うことを聞いてくれないのか。
あの力強い眼差し。
向こうは、俺が”俺”だと認識しているのか。

ふと気がつけば、家の前だった。
家といっても、家族を置いて東北から上京してきた山吉に一軒家は広く、木造長屋に部屋を借りているのだが。
靴を脱いで上がろうとすると、奥から此処の長屋に勤める女性が顔を出し、山吉さんと声を掛けた。

「山吉さんにお電話です。急ぎの用事のようで…」
「自分にですか?」

女性が持っていた受話器を取ると、騒がしい雰囲気、ぼそぼそと切羽詰まった声が聞こえる。
山吉さん、と向こうがごくりと唾を飲むのがわかった。

「二時間前、北京の盧溝橋で日本軍が中国の国民革命軍に発砲され、そのまま両軍衝突したと…」
「…………」

暫しの、無言。
意識して間を作っているわけではない。いきなりの事に脳が対処仕切れず、一時的に思考停止してしまったのである。

連合国軍側とも不穏で、和平に持ち込もうとしているのに?そこにさらに中国が?

「明後日朝6時に臨時…」

それ以上、向こうの声は耳に入って来なかった。
は、と乾いた笑いが零れる。
もう限界だった。
…これでまだ和平交渉を続けるとか言ったら、国会だろうが軍の前だろうが怒鳴ってやるぞ、浅野。

返事もせず、そのまま受話器を置いた。

第九波→←第七波



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (17 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
9人がお気に入り
設定タグ:忠臣蔵 , WW2 , 合作
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

嵩画鯉城@トラ!トラ!トラ!(プロフ) - 月読命さん» ありがとうございます(o^^o) そうなんですね〜、死後百年ですか…この小説の舞台は若干微妙な年代なので、その辺り気を付けて書いていこうと思います。 (2017年10月6日 18時) (レス) id: 3ce9c05f06 (このIDを非表示/違反報告)
月読命 - 更新がんばってください!ちなみに歴史上の人物の場合、死後およそ100年で名前をかってに使われない権利みたいなのが消えるみたいです。 (2017年10月2日 20時) (レス) id: 3990fcd378 (このIDを非表示/違反報告)
蘭秀@ニイタカヤマノボレ(プロフ) - あんこ(ろ)餅さん» コメントありがとうございます。歴史上の人物を使用する場合はオリフラを外す必要はない、と聞いたのですが…。ちなみにww2の内容については実在する団体は一切使用しておりません。 (2017年6月19日 7時) (レス) id: c435ca72cc (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(ろ)餅 - これはオリジナルですか?実在する団体などを使用してる場合はオリジナルフラグを外してくださいね (2017年6月19日 7時) (レス) id: db0d61df1d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:蘭秀、鯉城 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年6月11日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。