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「ろうそくのような人」とは?
自身の身を削ってまで周りの心を照らす、太陽のような人のことを言うだろう。沈む太陽と逆に、上がってくる月。月は太陽よりも淡く、明暗の差が激しい。ろうそくのような人の反語はなんだろう?

彼女と公園で別れた後、足早に家へと戻る。茜色の空が紺の夜空に浸食され始めて紫色になっている。空が黒へ飲み込まれてしまう前に家に帰らなければ。

ねじが緩んだ裏門を音を立てないよう開く。玄関のランプに火をつけている使用人が見えた。ということは、あと一時間もせずに父親が帰ってくるだろう。古びた梯子を上って二階に上がる。明かりをつけたままにしているから、多分この時間は勉強していると思われているはずだ。

開けたままの窓から部屋に戻り、梯子を両手に巻き付け回収する、窓を閉め洋服タンスの一番下の引き出しに帽子と梯子を入れると、ようやく一息つけた気がした。

ポケットから鍵を出して机の鍵付きの引出しを開ける。小さな瓶を取り出し、中の白い砂を見つめた。それを一つまみして口の中に放り込むと、すぐに溶けてなくなる感触とともに口の中に広がるのは、甘い砂糖の味。

室内に置かれたベッドは部屋の大きさに合わせるようにとても大きい。肌触りがいいふわふわした感触が体を包み込み、意識が遠のいていくのがわかる。このまま意識を手放してしまえば、夢の中でも幸せな気持ちでいられるのだろうか。

落ちてくる瞼に逆らわず、このまま食事に参加するのをやめてしまおうかと考えていた時、扉を叩く音がした。コンコン、という控えめな音が耳に届く。

「坊ちゃん、夕飯の時間ですがいかがなさいますか」
「……今行く」
「承知しました」

ベッドから起き上がって、壁にかかっている時計を見ると針は七時半を指している。窓の外を見れば空が暗くなっていた。月がぼんやりと浮かんでいる。隣に彼女がいない喪失感を紛らわすために、カーテンを引いた。



「お、やっと来たな」
「おかえりなさい、父上」

父の帰りが早い日が続いている。最近は家族全員で食事をとることが多い。父も母も嬉しそうにに笑っているし、家族の団欒風景に自分も溶け込んでいるはずなのに、どこか居心地の悪さを感じる。学校はどうだ、成績はどうだ、親として家として当然の質問をされるたびに息が詰まる。一日で成績が大げさに変わることもないだろうに、父と母は毎回聞いてくるのだ。それでも笑顔で返すのが正解だと知っている俺は、曖昧に笑ってやり過ごすしかないのだった。

(早く、この家から出たい)

*→←街灯の光を舞台に踊りだす



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ヒロ(プロフ) - 消えた字、見つけた。好きです。頑張って下さい。 (2019年11月14日 23時) (レス) id: 7769e45292 (このIDを非表示/違反報告)
雨上がりのcrew(プロフ) - すごい。。。この作品私得←これからも更新頑張ってください!! (2019年7月7日 15時) (レス) id: 11f12a305b (このIDを非表示/違反報告)
とある暇人 - 文章が読みやすくて一気に読んできました←これからも更新頑張って下さい! (2019年1月15日 19時) (レス) id: 09ab6582bb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ねこた | 作者ホームページ:***  
作成日時:2018年11月24日 14時

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