百七十八 ページ28
「それって……つまり」
コクリと頷いたAは、寂しげに見えた。もしかしたら、野暮な質問をしたのかもしれない。聞くべきではなかったのかも。
そう考えていたことがバレたのか、Aは可笑しそうに笑って首を横に振った。
「初めてですよ、こんな話したのは」
「旦那には?」
「勿論、言えませんでした。どこまで知ってるかは分かりませんが、銀ちゃんは……きっと、薄々勘付いているんじゃないでしょうか」
目を細め、「敵いませんね」と苦笑するAは、微かに震えている。
今、俺と会話することでさえ辛いのだろうか。俺と触れることすら、嫌なのだろうか。
「A」
「はい」
呼んですぐさま頬に手のひらを当てる。ビクリと小さな肩が跳ね上がり、彼女は目を見開いて一瞬身じろぎをした。
「俺のことが怖いですかィ」
目を逸らさず、ジッと見つめて尋ねる。
「それは……」
Aは、若干呼吸を乱して、苦しそうに口を引き結ぶ。
「嫌いですかィ」
右往左往していた視線が、ようやくこちらを見た。
俺の手にそっと触れた彼女の指は、こちらが驚くほどに震えている。真剣そのものであるその瞳の中にも、恐怖の色が見て取れる。
「好きだから__辛いんです」
思いがけない言葉に、今度は俺が息を飲む番だった。だが、たったその二文字を聞いて浮かれ上がれる状況ではない。彼女は心底辛そうな表情で口を開くのだ。
「私は、隊長が好きです。でも、心はそうでも、体が、昔のことを覚えているんです」
一言一言区切り、ようやくAが言い終えた言葉を噛み締める。
体が覚えている。それはつまり、過去にこいつが受けた仕打ちや痛みや傷が、俺を拒否してるってことだ。そんなもの、俺に癒すことができるのか?
「分かりますか?私、こうして隊長の手に触れるのでも精一杯なんですよ。勿論、隊長は昔私に手を出した男達とは違うと頭では分かってます。でも、どうしようもないんです」
「自分では抑えられない。好きなのに__こんなに近くにいるのに、触れる事すらままならない。それが私には、耐えられないんです」
言い終わってからAはハッと、自分が何を言っているのか気付いて身を引いた。
うっすらと目尻に浮かんだ涙にも気付いたのだろう。彼女は無造作に目を擦ると、息を吐いた。
「少し、頭を冷やしてきますね。今言ったことは、どうか、忘れて下さい」
走り去る背中に手を伸ばすも、俺にはAを引き止めることはできなかった。
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伝説じゃないパンダ - お久しぶりです!コメントは全然大丈夫です!忙しいと思うので(^^;)テストの結果が良かったことを祈ってます!今回もとても面白かったです!続きも楽しみに待ってます!!!(*´∇`*) (2019年9月15日 13時) (レス) id: dcff47e5eb (このIDを非表示/違反報告)
ちびロボ(プロフ) - 伝説じゃないパンダさん» 先月のコメントに返信できず、申し訳ありません(T-T)毎月毎月ありがとうございます!1ヶ月更新を待ってくださる伝説じゃないパンダさんの懐の深さに感謝です(^^)テストが終わり次第書き溜めたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m (2019年7月18日 18時) (レス) id: 6ccebea4a4 (このIDを非表示/違反報告)
伝説じゃないパンダ(プロフ) - あ!伝説のパンダです!伝説じゃなくなりましたが!w (2019年7月18日 3時) (レス) id: 38426ec896 (このIDを非表示/違反報告)
伝説じゃないパンダ(プロフ) - 発狂するかと思いました!(笑)夢主ちゃん!頑張れ!← 毎月、面白いお話が読めて幸せです!更新については、焦らないでくださいね!勉強に支障が出てはいけませんし!レポートと、テスト。。。辛いですね。勉強頑張って下さい!私は一から読み直します!! (2019年7月18日 3時) (レス) id: 38426ec896 (このIDを非表示/違反報告)
伝説のパンダ - 本当に今回も最高でした!夢主ちゃんよかったですね〜!本当に安心というか!夢主ちゃんの復帰の仕方も、あの人達らしいというか、、、、w本当最高です!大変かと思いますが、最後まで私も応援しますので、こちらこそよろしくお願いします! (2019年6月15日 12時) (レス) id: 7058246684 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちびロボ | 作成日時:2019年4月2日 15時