【銀魂】隼と呼ばれた鬼 4

百七十二 ページ22

「おい、聞いたか？」

「あー、聞かなくても、まあ……分かるよな」

「……まあ、そうだな」

「分かりやすいよな。喧嘩か？」

「どうだか？大体うちの隊長は、あの何しても怒らなそうなAちゃんに何したんだよ」

「さあ？着替え覗いたとか？」

「そんなことであんな風に？」

「……ならないだろうなぁ」

朝礼で集まった隊士の話は、この一点で持ちきりだった。噂の発端は朝の食堂での出来事だ。
隊士達からしてみれば、いつもは一口一口噛み締めて朝食を食べているAが、今朝は何かに掻き立てられるかのように忙しく食べていた光景がそもそも異質だった。
しかし、噂に成るにはまだ弱い。本題はここからだ。
食堂に汗を拭いながら近藤と沖田が入ってくるなり、Aは席から音も立てずにスッと立ち上がり、食事も半ばに食堂を後にしようとしたのだ。
挨拶もなしに二人の横を通り抜けようとしたAの肩を、沖田が掴む。遠くから見ても分かるほど、その瞬間、Aは飛び上がって驚いたらしい。
流石の沖田も唖然としてしまい、近藤は横で二人をオロオロと心配そうに見つめていた。Aは沖田が驚いている隙に一目散に逃げ出し、今に至ると言うわけだ。

近藤、土方が前に立った。
その瞬間、騒ついていた部屋が静まり返る。

「今日の担当を発表すんぞ」

静かになったことを確認したのち、土方が紙をポケットから取り出し、各自の担当を伝えていく。
いつもは一番隊から順番通りに発表されるのだが、今日は普段とは異なっていた。沖田が、不服そうに眉をひそめる。

「最後に、総悟とAだが……お前らはしばらく別行動だ」

隊士達の中には、困惑して首を傾げる者もいるし、やはり何かあったのだろうかとチラチラ二人を盗み見する者もいる。
唯一冷静だったのは、今朝の案件を知る近藤と、相談を持ちかけられた土方、そして当事者であるA、沖田だけであった。
コホンと咳払いして注目を集め直すと、土方は再び口を開く。

「Aには、しばらくの間俺の仕事の補佐をしてもらう事になった。総悟は、自分の隊から数人見繕って見廻りだ。分かったな」

今日一日の行動確認も終わり、隊士達は各々の仕事に取り掛かる。土方とAは早速書類仕事に取り掛かろうと副長室に向かおうとしたが、その前に、何か言いたげな沖田が道を塞いだ。

「……納得できませんか？」

Aがようやく口を開く。

「……当たり前でィ」

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