【銀魂】隼と呼ばれた鬼 4

百七十一 ページ21

「……刀が振るえない？」

机に広げられた書類とにらめっこしていた顔をこちらに向け、副長は訝しそうにこちらを見つめる。
私は信憑性を持たせる為にも、一応深刻そうな顔を作って頷いてみた。

「はい。今朝気づいたばかりで、原因は分かりません。一種のPTSDみたいなものだとは思いますが」

「治るのか？」

彼は加えていたタバコを灰皿に置き、腕を組んで無愛想な言葉を投げかける。私はというと、鼻を袖で軽く抑えながら肩をすくめ、また頷いてみた。

「時間をかければ、おそらく。なので、しばらくは見回りでなく、書類仕事を任せてくれませんか？」

「まあ、お前が良いってんなら、願ってもねェけどよ……総悟と、なんかあったか？」

ビクリと肩が一瞬持ち上がる。急に激しさを増した心音を笑って誤魔化しつつ、首を横に振る。

「隊長とは……いえ、別に」

「今の間は？」

「やだなー、ちょっと記憶を振り返ってただけですよー」

「……正直、こっちとしては半分お前、半分高杉の野郎のおかげで溜まりに溜まった書類がある。今日からお前が手伝ってくれるってんなら助かるが……はぁ、面倒事になる前に、なんとかしてくれよ」

なんやかんやで融通が利く人で良かった。
内心ホッとしつつ、握り拳で軽く胸を叩いて笑った。

「まあ、任せて下さいよ」

「お前はまともそうに見えて、実は厄介事ばっかり起こすからな」

「そんな風に私を見てたんですか？」

「そりゃそうだろ。誰が、港ごと爆発させろって言った？……たくっ、お前の証拠隠蔽術には恐れ入るよ。あんだけ派手にやって、証拠の一つも出て来ねェ」

「褒められてます？」

「褒めてねェよ」

少々苛立ちながら、もう出て行けと言わんばかりにシッシッと手を振られた。
全く、初日の書類仕事の救世主として歓迎されたあの面影はどこへ消えたのだか。

「もう行きますけど、この件、よろしくお願いしますよ」

「早く行け」

副長の声に追われるようにして、彼の部屋を後にした。
ほんの一時間前の事件だから、まだ食堂に行くのは憚られるが、行かなければ腹も満たされない。
恐る恐るといった様子で食堂を覗いたが、隊長の姿はない。
よし、今が絶好のチャンスだ！
素早く、手早く、朝餉を受け取ると、未だ嘗てないほどのスピードでご飯をかき込む。
食堂のおばちゃんや周りで食べていた隊士が思わず手を止め、こちらを呆然とした様子で見ていた。

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