ただ、名も知れぬ貴方を。【鬼灯の冷徹】 (ページ5)

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それから私は、薬を作る間に女性と話していた。

彼女はお香さんと言って、衆合地獄で働いている獄卒だそうだ。
通りで、その色っぽさにも納得がいくわけだ。

「貴女は……Aさんで合っているかしら？」

ふとお香さんから聞かれる。
そう言えば私、まだ名乗ってもいなかった。

――あれ、でも何故私の名前を知っているのだろう？

「えぇ、そうです。……失礼ですが、どこかでお会いしましたか？」

「会ったのは初めてだけれど、貴女の事はよく知っているわ」

「誰かから聞いたのですか？」

疑問に思った私が聞くと、お香さんは、

「そうなるわねぇ」

……と、意味の深そうな笑顔を浮かべるだけだった。

聞いても答えてはくれなさそうだったので、それ以上は聞かないことにした。

それからは世間話とか、お香さんが蛇を好きだとか
適当な話をして薬ができるのを待った。

普段の話し相手が白ちゃんしかいない私にとって、お香さんと話すことは新鮮で。

そして、楽しかった。

「薬、出来ましたよ。お待たせしました」

「ありがとう。助かったわァ」

こういう時に限って、時間が過ぎるのは早いと思う。
まだ、実際にはあまり過ぎてはいないけれど。

「送っていきますね。暇しているので……」

「嬉しいわねェ。Aさんともっと話したかったの」

「ふふ、私もですよ」

二人で顔を見合わせて、笑い合う。

またこんな他愛のない話がしたいな……なんて。
呑気なことを考えながら、私は戸締りをして、家に鍵をかけた。

向かう先は――衆合地獄。