107.美しい冬の宵 ページ7
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リアはシリウスにとって唯一だった。
唯一の理解者。唯一の家族。唯一無二の、……。
「意地悪ばかりね。嫉妬まみれの男はどんなにハンサムでもお断りよ」
目の前のお嬢様はそんなことを抜かす。
そんなところも愛おしいと感じてしまうなんて、自分もどうにかしている。
しかし、シリウスは知っているのだ。
リアがわざと皮肉を口にする理由も、もう己には友人以上の感情がないということも。
「それは悪かったな。そんな男がお前の、」
お前の、婚約者だ。
理由を知っていたからこそ、シリウスはそう続けることができなかった。
「……」
「？」
リアは怪訝そうに眉を寄せてシリウスを見つめている。
口の中がカラカラで、誤魔化すように急いでシードルを飲み込む。
知っていた。
シリウス・ブラックは聡い男だし、賢かった。
この幼馴染のお嬢様に関しては特に。
羨ましかった。そして、妬んでもいた。
家柄も成績も容姿も何もかも己より劣るのに、容易に大切なものを奪い去っていったあの男を。
カチャカチャと温度のない食器の擦れる音だけが2人の間に響く。
味のしない食べ物を無理やり飲み込む。
もう2人の間には、以前の恋人のような雰囲気はない。
しかしその空気は凍てついたものでもなく、不思議と穏やかだった。
潮時だと、シリウスは思う。
「リア」
静かにその名を呼んだ。
愛おしい彼女が、焦がれ続けている彼女が、己の瞳を射抜く。
このまま手脚を鎖に繋ぎ止めれば、彼女は己のものになるのだろうか。
下らない戯言が頭の中に浮かぶ。
彼女はそんなものに屈しないとわかっているのに。
「もう、」
大切なものほど己の手で壊したくなる。
真っ白なものほど黒く穢してしまいたくなる。
不釣り合いな、対極にある感情が、シリウスの中でぐしゃぐしゃに混ざり合う。
「……もう、終わりにしないか」
雪がしんしんと降り積もる、美しい冬の宵。
シリウス・ブラックは何よりも愛おしい彼女の手を、離した。
*
「……ま、婚約は解消したが、それ以降も何ら変わらず、親友だった」
コクリ…と程よい塩味の効いたお肉を飲み込む。
こんな話、食事中にするものではないのかもしれない。
シリウスにどういう意図があるのかもわからなくて、アイスグレーを見つめる。
「……」
矢張り、淡々としていた。
シリウスはぐいっとグラスを傾けて、赤ワインを飲み干した。
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もちお(プロフ) - 寝る前や空いた時間に少しずつ読みました！この作品がとても大好きです、更新楽しみにお待ちしてます！！！ (4月29日 16時) (
レス) @page32 id: 3dbffe5af8 (このIDを非表示/違反報告)
ことり。 - 引き込まれてどんどん読み進めてしまいました！更新楽しみにしています！ (4月4日 22時) (レス) id: 0c2f06c45e (このIDを非表示/違反報告)
ihok(プロフ) - ななさん» 更新が滞ってるのにも関わらず、温かいコメントありがとうございます^ ^ 少しずつ時間を見つけて更新していこうかと思います！これからもよろしくお願いいたします。 (9月8日 10時) (レス) id: 7fd5b0eefb (このIDを非表示/違反報告)
なな - 久しぶりに読み返しました、また号泣してしまいました（т-т）無理せず更新されることを願ってます。 (8月27日 1時) (レス) @page28 id: aed3455a0e (このIDを非表示/違反報告)
ihok(プロフ) - イジーさん» ありがとうございます！お話更新したので是非^ ^ (2023年3月29日 22時) (レス) @page26 id: 7fd5b0eefb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ihok | 作者ホームページ：http://mobile.twitter.com/ihok__
作成日時：2021年9月7日 23時
