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部屋に戻り、テーブルいっぱいに散らばった皿を集めていく。
「あの、手伝うよ」
「え? いやいやいいよ! お客さんだもん。ゆっくりしてて」
「けどAさんだけにやらせるって言うのもなんか……」
「いいから! 中島くんは後から忙しくなるだろうし」
引き下がる優しい彼をなんとか諭す。気持ちは有難いが、キッチンに二人で立ってしまったら、それこそ同棲みたいで私の心臓が持たない。動揺で皿を落としてしまわないよう気を付けながら、なんとかシンクまで辿り着く。
流水でおおまかに汚れを落としてから、スポンジを使ってどんどん洗っていく。すると中島くんが私の横まで来ておもむろにふきんを手に取った。
「ごめん、やっぱりこれくらいは」
言いながらたった今洗い終わったばかりの皿を拭く中島くん。急に縮まる物理的な距離に言葉が出ず硬直していると、そんな私を見兼ねてか彼はまた口を開く。
「ごめんね。迷惑だったりする、かな」
「あ、う、ううん! 迷惑なんてそんな! ありがとう。じゃあお願いしよう、かな」
「良かった」
「うん、頑張ろう!」
緊張のあまり普段通りに話すことが出来ず、変に思われてはいないかと不安で仕方がない。
初めは息が上がってしまいそうなくらいに鼓動が速かったけれど、彼と話しているとそれも気にならないくらいに楽しかった。意外と共通の話題もあったりしてそれなりに会話は弾んだ。
しかし、会話が途切れた一瞬の沈黙、彼の一言に私は自身の耳を疑うしかなかった。
「好きだ……」
中島くんは、確かにそう言ったのだ。
「……っえ、?」
私が思わず声を漏らし彼に視線を向けたのと同時に、彼もこちらを見る。口元を押さえてびっくりしたような顔をしていて、多分、彼にとっても思考の端から口をついて出た言葉だったのだろう。目が合ったコンマ数秒が永遠にも感じられた。
「えぇっと……? な、何がだろう……?」
誤魔化すようにへらへらと笑って、何を思ったか泡まみれの手を勢いよく洗い流す。私は完全に冷静さを失っていた。
好きな人と二人きりの状況で、好きな人から出る『好き』という言葉に敏感にならない方がおかしい。でも今のはもしかしたら洗剤の匂いが、かもしれないし、ふきんの手触りかも……
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静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…!ありがとうございます!最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです! (2022年4月13日 0時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜!☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー!楽しんで頂ければ幸いです!🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます! (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜!次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します! (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:静寂(しじま) | 作成日時:2022年1月21日 0時