【閲覧注意←】パンドラダイアリー。【妄想オリジナル】

私に勇気なんてなかったから。 ページ32

ピエロの幕開けは始まったのか
それとも終わってしまったのか
もし始まってもいない、なんて言われてしまったら滑稽ね。

でもピエロは滑稽であるべきだから。
笑わせるだけの存在だから。

...私は誰だったんだろう。
物語の中で、ピエロだったのか、それとも司会者だったのか、それとも下働き？
アイリーンは、クリスは、きっとメインキャラクター。

だって、いつだって彼らは主役。
何にも取り柄のない、ただの人間の私と違って、彼らは誇れるものがあるんだから。

私は違った。
ずっと他人が羨ましいだけ。ずっと他人が妬ましいだけ。
ずっとクリスを捕まえて、優越感に浸っていたのは、私だったんだ。

私は悪くないはずなのに。
私のせいなんだ。

「...ごめんね、クリス。」

クリスはもう私をおいて先に行ったのに
置いてけぼりの私は、まだここで立ち止まっている。

先へ行ってしまったみんなが羨ましい。妬ましい。
私はまだここで動けないでいる。

先を行こうとしたクリスを、鎖で縛ってしまったのは私だから。

それでもね
幸せだったよ。
君といた日々は。
私が私で、誰かの特別で、誰かに構ってもらえる、愛してもらえる日々はとてつもなく幸せだった。

でも、もう離してあげるね。
解放するね。

「ごめんね、クリス。」

もう一度繰り返した。
小さく笑ってみたけど、うまく笑えてるかな。
顔の筋肉が引き攣れている気がする。

もう二度と笑えない気がしていた。

「もう、いいよ。」

私が何を言っているのか分からないのであろうクリスは、困惑の表情を浮かべていた。
それをみて、苦笑する。
ねぇお願いだから、私も解放して。

私は先へ進むから。

「いかせて」

先へ。
置いてけぼりの私も、自分の力を確かめてみたいから。
みんなみたいに、先に行きたいから。

「ごめんね、ありがとう。」

いつの間にか、憎かった相手はあこがれの対象だった。
どこで歯車が狂ってしまったのだろう。

だってどん底に突き落としたいほど憎かったはずなのに。
あそこまで突き落とされて、私の頭もおかしくなっちゃったのかな。

「だから、もう二度と俺に触れるな。」

乱暴に言い放った。
唐突に元の口調に戻った私に、もう見飽きた驚きの表情。

「俺は俺の進む道を決めるから。もうお前らに振り回されたくないから。」

自分では何もできない自分と、私をいじめるという覚悟ある行動をする皆。
妬ましくも、憎くもあって、羨ましかった。

私に勇気なんてなかったから。

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