七十四 ページ22
夜明け前の静かな時間。
裏に隠れていた闇は表へと這い出る頃。
「吉原で悪事を企むとは、運が悪かったのう」
金色の髪が風に揺れ、こつこつと音を立てて、近づく。
闇の影達が彼女に刀を向けた時、その影はどさりと音を立てて倒れる。
「月詠さん、引きつけてくれてありがとうございます」
倒れた影の後ろから、構えたAの姿。
その姿は小さいながらに逞しく、凛々しい。
「Aが百華に入団してくれるとは、いい戦力を持ったの」
ふうと吐いた煙は、風に寄り添うようにして流れた。
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「私は…いや私を、百華に入れて下さい」
Aは、月詠に深々と頭を下げた。
突然の願いに、月詠は目を丸くし、顔を上げるよう促した。
「突然どうしたんじゃ」
頭を下げたままのAはそのまま語る。
「もっと強くなりたいんです。それに、私のこの力をただの暴力に使うんじゃなく、誰かを守る為に使いたいんです」
顔を上げたAの眼差しは、真っ直ぐで、決意を固めたように見えた。
「その誰かは、
…もうアンタの中で決まってるのね」
日輪がそう言えば、Aは縦に首を振った。
そして、もう一度月詠にAは頭を下げる。
「入団する以上、私も生半可な気持ちでしないのは勿論、どんなことでもやります。お願いします」
日輪と月詠は顔を見合わせた。
(百華に、ねえ)
その願いに、どう判断するかは、もう月詠の中では決まっていた。
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「へえ。Aが百華にねえ」
銀時は団子片手に、月詠から話を聞いていた。
「百華に良い戦力が入った。わっちらも頼もしい奴が入って、将来安泰じゃな」
「腕力ゴリラ並の女が2匹もいちゃあ、吉原も安泰だな」
その言葉に、苦無と拳が飛んでいく。
銀時の額からだらだらと血が流れ、Aはぱんぱんと手を払った。
飲み終わった茶を片付け、裏に向かうAに
「んで、お前。辰馬とはどうなったの」
と銀時は声をかける。
Aは振り向かずに、そのまま裏へと暖簾をくぐった。
何も応えない女に、銀時は投槍に団子を口に放り込む。
「あの子、誰かを守りたいから百華に入って強くなりたいんだって」
「誰か、ねえ。あいつは守られるほどやわじゃねえと思うけど」
青い空を見て、今頃商売に直走る男の顔を思い出す。
「男は女に守られるより守りてえ生き物だと思うけど」
「女だ、って枠に囚われるのが嫌なのよきっと」
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Nattu(プロフ) - connyさん» 返事遅くなって申し訳ございません。コメントありがとうございます!connyさんのご期待に添えるよう、楽しみながら書きたいと思います* (2021年2月20日 1時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - 応援してます!続き楽しみです! (2021年2月11日 0時) (レス) id: 712cd20bd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年2月10日 14時