35話 ページ36
Aの手を引きながら花を持ち、墓地の合間を歩いて足を止めた先の墓石。
“のはら リン”と刻まれた文字を険しい表情で見つめながらカカシはゆっくりと腰を下ろして花を添えた。
すっかり枯れてしまった前の花を取り除いて、ユリの花が左右で揺れる。
「リン…ミナト先生が四代目火影になられたんだ」
何を口にして良いか散々迷って、ようやくポツリと呟くように発せられた言葉はその一言だった。
発した後で、ぐっと拳を握って気まずくなり黙ってしまう。
険しい表情がより険しくなった事で隣に同じように座ってユリの花を触っていたAが顔を向けた。
俯く横顔と細められる瞳は酷く緊迫していて怖い。
それでも瞬きながら視線を外さず映す色は先ほどと同じ静けさだった。
(いや、何を言ってるんだオレは。もっと他に言う事があるだろ)
握った拳が震えるのは力を込め過ぎているからではない。
目を開けていてもフラッシュバックして消えない光景は悪夢だけではなくなっていた。
毎晩魘されて目を覚ます度、手が赤くなるほど水で洗い流しても消えない紅。
掌を染め上げた生温かい感触と鉄臭い匂いが消えない。
リンの胸を貫き、息の根を止めた感覚が。
―カカシ…カカシ…!!
千鳥が閃光を発する中で、血を吐いたリンの表情と呼ぶ名が耳に残って。
毎晩毎晩カカシの心を苦しめて、いつしか恨みを叫ぶ表情に変わっていく。
握った拳を開くと震える掌に、どす黒い紅が見えてぞっとした。
その時だった、その紅に小さな手が重ねられて見えなくなったのは。
「!」
「リン姉、あのねっカカシ兄は任務いっぱい頑張ってるんだよ!あとねガイ兄はいつも青春だーっ!って燃えてる!」
「…Aちゃん?」
「アスマ兄と紅姉は一緒にいていつも色々教えてくれるの。あ、こないだ自来也せんせーが里に帰ってきてね、大人な取材してた!」
開いた手へ小さな手を重ねて握ったと思ったらペラペラと思いつくままに話すのは他愛無い日常。
しゃべりは拙いながらも、カカシが戸惑うくらい力いっぱい元気を込めて。
落ち着かせようと発しようとした言は向けられた表情に飲み込まれた。
「みんな元気でやってるよ、だから心配しないでね!」
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作者ホームページ:http://なし 作成日時:2017年6月17日 0時